生かさず殺さず愛してる
俺は未だ生きている。
生き長らえている。
生かされている。
絶え間なく与えられ続ける毒によって。
「愛してる」
「やめろ」
「やめない、愛してる」
「もう俺は」
「まだ俺には必要だ、愛してる」
これは、毒
「言った筈だ、俺が此処に居る道理など無い、離せ、今すぐに離せ」
「嫌だ」
吐き出す息は瘴気、掛かった箇所より侵され融解する感覚に陥る。
「俺がどれだけ待ってたと思う? 俺さ、あんたが居なくちゃダメなんだよ、ばら
ばらになっちまって、俺が俺でいられないんだよ」
相変わらず意味を成さない言葉をのせた舌には酸が流れているらしい。舐められ
噛み付かれた肩口がひりひり痛む。殊に首から胸元にかけての鬱血には皮膚はお
ろか、肉までも焼く様な痛みをともなった。
「半身を失った悲しみ、ってやつのせいでさ、長いこと無茶苦茶やってた。あん
たに言いたくねェこと、いっぱいやった」
「……それがどうした」
「だから! だからさ、これからずっと一緒に居てくれよ、バージル! どこへも
行かずここで暮らそう、ガキの頃みたいに!」
そしてこれは凶器。腹を刺し、裂かれる心地がする。
「やめろ」
「嫌だ、やめるもんか、離すもんか、あんた絶対またどっか行っちまうだろう、
愛してるんだ、愛してるんだ、一緒にいたい、一緒になりたい」
「ダンテ」
「そうだ、そうやって俺のこと呼んでてくれ、あとは何も言わなくったっていい
」
「ダンテ」
「やっぱ今のやめた、愛してるって言って欲しいんだ」
「……愛してる」
言って奴の気が済み俺が解放されるならと思った。しかし実際、考えとは逆の状
況にしかなり得なかった。凶器に身体を撫でまわされ、毒は口腔より流れ入って
遂に俺のすべてを侵す。絡めとられた舌では奴を愚かな弟と罵ることもかなわな
い。
愛は毒、優しさは凶器、自分には過ぎたるもの、苦しむばかり、“死ね”と言う
のが常であった俺が思うのも可笑しな話だが、苦しめるならどうか、どうか俺を
殺してくれ。
作品名:生かさず殺さず愛してる 作家名:みしま