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皐月と弥生。

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冴え渡る冬の夜空に、煌々と白く光るのは半分の月。
その冷たく澄んだ光を見上げながら、皐月は羽織ったカーディガンの襟元をかき集めるように合わせる。
夜も更けて、たけなわとなった通称ワンワン会の新年会は、まだまだ終わる気配を見せない。彼女たちのバイタリティには、呆れるのを通り越して感心すらしてしまう。
彼女たちには幼い頃から色々と世話になっているし、特に卯月の母には、タダで事務所に居候させてもらっている恩もある。おさんどんをするのは一向に構わないのだが、素面でさえ太刀打ちできない面子だ。したたかに酔った状態でのお相手は、さすがにご免被りたい。
三十六計逃げるに如かず、とばかりに、山ほど料理を作って出し終えて適当に愛想を振りまいた後、頃合いを見て部屋を抜け出してきた。逃げ遅れた卯月には悪いが、まあ、泥酔した卯月を介抱するのも、宴の残骸を片づけるのも、どのみち皐月の役目だ。このくらいは見逃してほしい。
それにしても、すっきりと晴れた気持ちの良い夜空だ。ちかちかと瞬く星屑も、驚くほど鮮明に見える。
このまま少し夜の散歩を楽しむのも悪くないかもしれない、と思った矢先、ふいにやわらかな声が夜気をふるわせた。
「あれ? 皐月くん?」
にっこりと微笑んで皐月を呼んだのは、弥生だった。
厚手の丹前を羽織り、きちんとマフラーまで巻いた姿で、手には風呂敷包みを持っている。大きさや形から察するに、中身は弁当箱かタッパーか。夜食の残りをつまみとして母であるエイコたちに差し入れるつもりなのだろう。
「うえっ! あっ、や、やよちゃん?」
「こんなところでどうしたの? 珍しいね」
「いやーまぁ、ね?」
早寝早起きの弥生が、こんな夜更けに外を出歩くこと自体、珍しかった。
サボりを見咎められたような気まずさに、皐月は苦笑いを浮かべて動揺を誤魔化そうとするものの、うまくいかない。
卯月を人身御供にして逃げ出してきた、と弥生相手に素直に白状するのはためらわれたが、状況から大体のことは察せられたのだろう。特に責めるでもなく、弥生はくすくすとおかしそうに笑った。
やわらかそうな猫毛は、月の光にとろけるような淡い色だ。
ふわふわとした髪に悴んだ指を絡め、軽く引っ張る。
どうしたの、と問いかけるように眇められた薄茶の瞳も淡く、甘い。
肌寒い夜更けの人恋しさのせいだろうか。あるいは、思いがけない遭遇に、自覚しているよりも浮かれているのかもしれない。
我慢できずに、触れるだけの口づけを落とす。
少しかさついた唇は予想していたよりも温かくて、じわ、と頬が熱くなる。
「あんまり悪いことしてると、卯月に告げ口しちゃうよ?」
口づけたばかりの唇が、やさしく弧を描く。
子供のいたずらをたしなめる声音で、何でもないように卯月の名前を出してしまえる弥生のことを、皐月は心底恨めしく思う。
けれど、腹の中で渦巻いている感情は何一つ言葉にできないまま、皐月はへらりと情けなく笑って、こめかみをくすぐるように弥生の髪に指を差し込んだ。
「ここにいるやよちゃんも同罪でしょーに」
「ふふ」
こぼれ落ちた白い吐息が、夜気に溶ける。
真夜中だというのに、この場所は明るすぎるのだ。
気づかないようにしていたものまで暴かれてしまいそうで、ぐらぐらと心が揺らぐ。
彼はいつだって温かい。まるで皐月に口実を与えるみたいに、無防備にやさしくて、甘くて、残酷だ。
「共犯になっちゃう?」
そっと掌で白い頬を撫でて、温もりを確かめる。
悴んでいた指先から、熱とともに何かが伝わるような錯覚を抱く。
「どうしようかな」
そう呟いて、弥生は袖の中にしまい込んでいた指先で皐月の唇に触れる。
どうしてこんなところまで馬鹿みたいにあったかいのかな、とうんざりしながら、皐月はやけくそのようにその手を乱暴に掴んで、掌に唇を押し当てた。
作品名:皐月と弥生。 作家名:あらた