シャボンのおさそい
ダンテが空気をめいいっぱい含んだ髪に鼻をうずめれば、シャボンの香りがふ
んわり流れ入ってくる。洗いたての証拠だった。
「やめろよ」
「やだ」
「俺シャワー浴びたばっかなんだけど」
「わかってる」
抱きすくめたネロが身じろぎするたび、彼の髪はダンテの鼻先をくすぐった。
鼻はシャボンを追う、ふわふわ揺れ動く髪のゆくえを追う。まるで花畑のチョウ
を追いかける子どものように。
「くすぐったいから! やめろって!」
胸を押し返して思いきり身体をひねって。やっとのことでダンテの腕のなかか
ら逃れたネロの頭は、すっかりぐちゃぐちゃだ。
そんなネロが訴える。
「俺は! シャワー! 浴びた! ばっか! なんだけど!」
対してダンテ。
「けど?」
「けど? じゃねぇだろ!」
「そりゃ俺のセリフだ、けど? なるほどそれで? 坊やの言いたいことは何だ?
」
これだから最近の若いヤツらはいけないな、なんて続けてため息。
なんもわかってねぇ、とネロもため息。
「つーかあんたもさっさとシャワー浴びろ、汗臭かったぞ。あーニオイついたか
も、髪だってこんな――」
「いや、俺はわかってる」
「何を?」
「もう一度俺と一緒にシャワーを浴びればいい」
にっこり笑顔でごく自然に言い放たれたのを聞いて、ネロの頭はついに中身ま
でぐちゃぐちゃになってしまった。