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手を繋いで輪を作る方法

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さて、なんでこんなことになったのだろうとフェリシアーノは考えていた。

しかし頭をフル作動させても発端が分からない。
もしかしたら自分のいない隙にこんなことになってしまったのだろうかとも考えたが、自分を含まない問題でルートヴィッヒが怒っているのを見るのは稀な事だったので、ますますフェリシアーノは悩み、考えた。
でももうすぐお昼でお腹も減ってパスタ食べたいな、パスタ作っちゃダメかな、なんて別のことを考えたかった。ダメならピッツァでもいいけど。そう思いながら珍しい光景を眺めた。
怒っているルートヴィッヒの目の前にいるのは、フェリシアーノより小さくてかわいい菊がいる。しかし菊はすごい剣幕のルートヴィッヒに全く怯まずに静かに怒りながら冷たい物言いをしていた。 
フェリシアーノは純粋に
「すごいなあ」
「怖くないのかな」
「パスタ食べたいな」
を延々と繰り返し思った。
そしてついに我慢できずに口喧嘩をしている二人を放置してキッチンへ向かった。もちろんちゃんと、キッチン使っちゃうからねー、と断りの声も一応かけたつもりだ。
キッチンへ潜り込むと、フェリシアーノは本格的に作るために、まず生地から作りにかかる。丹念に作った後、それを切って茹でて、特製ソースも作って、具はルートヴィッヒの家のものを借りた。
食べたいのはペペロンチーノだったのだが、まあなんでもいいかという気分に落ち着き、出来上がったパスタを皿に盛って、あの二人が居るであろう部屋に戻る。
跳ねる様な気持ちを笑顔に乗せて部屋を覗くと、菊が気づいてフェリシアーノに、にこり、と微笑んだ。それに笑い返して、あのねー、と作ったパスタを見せる。美味しそう、と言った菊にフェリシアーノはちゃんと菊の分もあるからねと言い、ありがとうございます、と菊は笑ってくれた。
あったかい日差しのような空気が部屋の中に流れていると、どこに行っていたのかルートヴィッヒが突然戻ってきて、不機嫌な顔で「フェリシアーノ」と呼ぶ。それがあまりにも怖かったので、条件反射のようにごめんなさいという言葉が口から出て、思わず菊の背中に隠れた。
隠れた瞬間、どうしてパスタ皿も持ってこなかったんだろう、とものすごく後悔したがそれは口には出せなかった。なぜなら、菊の低い「ルートさん」という声に遮られたからだ。

「まさかその剣幕で電話に出られたんですか?」
「そうだが?」
「もうちょっと冷静になられたらどうです」
「じゃあ聞くが、なんで本田はそんなに冷静なんだ」
「いえ、これでも怒ってますよ」

いつもと変わりないような菊の声と言葉には明らかに温度差があり、菊の背中に隠れたフェリシアーノは、あ、と間抜けな声を出した。
この二人が先ほどからよく分からない喧嘩をしていることをすっかり忘れていたのだ。しかし菊の小さな背中から中々抜け出せずに、フェリシアーノは「ヴェー」と情けない声を静かにもらした。 
本当にどうしてパスタ皿を持ってこなかったのだろう。

「なら、どうして怒っているのか説明してくれ。何が気に障ったんだ?」
「いえ、本当にたいしたことではないのでお気になさらないでください」
「それでは埒が明かないだろう」
「そうですが、些細なこと過ぎますので」
「その些細なことを怒ってるんだろう」
「怒ってません」
「怒ってるだろう」

本田、と不機嫌なルートヴィッヒの声が飛んでくる。
相変わらず堅苦しいなあと思いながら、フィリシアーノは小さな菊の背中に隠れられるように両膝を曲げて、脚を両手で抱え込んだ。 
これでルートヴィッヒから自分は見えないといいなあ、とどうでもいいことを考えながら、こと、と菊の背中に頭を預けた。少しだけ、眠くなってきてしまったのだ。
今にも寝てしまいそうな意識の中、また空気が少しだけ張り詰めた気がして、フェリシアーノは、おや、と思い頭を上げた。
菊の肩越しに視線がかち合ったのはルートヴィッヒの空色の瞳。フェリシアーノはそれを眺めながら、おお、と思い、すぐに触れられる距離の菊を呼んだ。ほとんど耳元で呼んだためか、菊は少しだけ身を捩るようにくすぐったそうに笑いフェリシアーノを振り返る。

「どうしました?」
「ヴェー。あのね、俺分かったんだけど」
「はい?」
「つまりね、ルーイは菊に引っ付く俺が嫌で、菊は名前を呼んでくれないルーイに怒ってるんだよね」
「…え。あ、の」
「ルーイ、分かった?」

フェリシアーノは菊の右肩に顎を置いたまま、ほとんど仁王立ちのルートヴィッヒを仰ぎ、首を傾げた。
ルートヴィッヒはフェリシアーノから言われた言葉を理解するのに時間がかかったのか、しばらく呆然としていたが、突然耳を赤くして、わかった、と小さく答えた。
フェリシアーノはそれに大満足して、にっこり笑いながら両手を広げて、がばりと小さな菊の身体を背中から抱きしめた。

「ヴェー! 解決であります、隊長!」
「わっ、ふぇ、フェリシアーノくん! あ、ああの、はな、放してください!」
「うん、じゃあみんなでパスタ食べようよ。二人の分もちゃんと用意したからさ」

ぎゅう、とひときしり菊を抱きしめた後、また不穏な空気を醸し出しているルートヴィッヒには気づかずにばたばたと部屋を後にした。

無事に解決した。
良かったーとパスタを準備しながら、ほのぼのそう思っているフェリシアーノと反対に、部屋に残された二人は妙な気分でパスタの到着を待つことになったことを、残念ながらフェリシアーノは知らない。



手を繋いで輪を作る方法
作品名:手を繋いで輪を作る方法 作家名:水乃