Night on the Galactic Railroad
ケンタウルの村
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コスモキャニオンの聖火は、今日も勇ましく燃えて、谷を照らしていた。
旅の仲間達が火を囲んで輪になって座っていた。クラウドの隣に、ザックスも座っている。
「なーんや色々思い出しますねえ…」
ケット・シーがぼそりと呟いた。谷の夜に燃える聖火は、仲間達の郷愁を誘って、遠い過去へと運んでいく。
ザックスはクラウドの隣で微笑みながら火を見つめていた。こんな夜は、色々とザックスも思い出してしまう。例えば、母親が炊事をする姿、クラウドと二人で逃亡中、森の奥で隠れる様に焚いた煮炊きの火、ニブルヘイムの業火。クラウドはこの火を見て、嫌な事を思い出してはいないだろうか?ザックスがクラウドを振り向くと、思いがけずこちらを見ていたクラウドと目が合った。
「…あは…」
ザックスが曖昧に笑う。クラウドはじっとザックスを見つめたままだ。ザックスは、ちょっと気恥ずかしくなって、なーんだよ。と言いながらクラウドを肘で小突いた。衝撃でクラウドの首ががっくんと折れる様に傾いだので、ザックスはぎょっとした。
「…ザックス」
「な、なに」
慌ててクラウドの首を直してやりながらザックスはクラウドに聞き返した。ミッドガルを出て、みんなと旅する様になって、クラウドはゆっくりとだが回復しいてる様に思える。最近は自分から語りかけてきさえする。まだ、動作は唐突で、体と心が合っていないくて、時々怖いが。
ザックスはクラウドがだんだん自分無しでも生きていける様になるのを見るに付け、一抹の寂しさを感じていた。勿論クラウドがニブル事件以前の様に喜怒哀楽を表してくれる様になって来たのは嬉しいが、巣立間近の子供を持つ親は、こんな気持ちなのか知らんとも思う。
「…ずっと、一緒、か?」
聖火の灯りに照らされて、クラウドの頬が赤く染まっている。ザックスは、クラウドの手にそっと指を絡めた。気がついて、クラウドも握り返してくれる。それが堪らなく嬉しかった。
「おう、ずっと一緒だ」
ザックスはにっかりと満面の笑みでクラウドに宣言した。クラウドが安堵した様に笑みを零した。その顔が、あんまり綺麗なので、ザックスは思わず赤面した。
あれから五年。五年もの歳月が経ったのだ。五年前は子供だったクラウドも、今では立派な青年だ。ザックスはずっとクラウドを可愛らしい奴だと思っていたが、成長した彼は、男のザックスから見ても、本当に美しくなった。
ザックスはどぎまぎしてクラウドの隣から席を立った。少し右往左往した後、エアリスの隣に座る。エアリスは、笑顔でザックスを迎えてくれた。そんな所はいつもの彼女だが、聖火に照らされて、少し思いつめた様な顔をしている様に思えた。
「…大丈夫か…?」
ザックスがエアリスに言った。さっき話していた長老と、何かあったのだろうか。エアリスは、ううん、何にも無いよ。と言いながら聖火を見つめている。ややあってゆっくりと語り始めた。
「…私、ひとりだから、ひとりだけになっちゃったから…」
ザックスは彼女が何を言っているのか察しがついた。彼女は今や地上でただ一人の古代種だ。今までぼんやりとそうなのかな。と思っていた気持ちが確信に変わった、その寂しさは、どれほどのものだろう。
「俺が…」
ザックスは、俺がいる。と言いかけて、言葉を濁した。彼女は、誰がどう言ったってひとりなのだ。どうやって慰めたらいいのだろう。
「俺達がいるだろう」
後ろから、ふいに声がかかって、ザックスとエアリスは振り向いた。そこにはクラウドが立っていた。表情の無い目が聖火に合わせて揺れている。ザックスは破顔して笑い声を上げた。
エアリスも笑った。ザックスはクラウドを連れて、エアリスの隣に座らせた。エアリスが二人ににっこり笑いかけた。
「ありがとう、クラウド、ザックス」
そうだ。言ってしまえば、簡単な事なのだ。古代種だから、現代種だからと言って、その違いがどれほどのものだろう。同じ人間だ。ただ、星との間にある使命に、気がつくか気がつかない、それだけの差だ。
今のクラウドは、時々しか感情のきふがない分、動作も感情もストレートだ。それがかえって、エアリスの良い助け舟になったのだろう。三人は目配せしあって、手を繋いだ。
ふとクラウドが空を見あける。エアリスも空を見て、あ、流れ星!と言った。ザックスが、どこどこ?と額に片手を翳す。
「なんやお三人さん、騒いでどうしはったんですか?」
ケット・シーが不思議そうに三人に話しかけた。流れ星だよーとエアリスが言うと、ユフィが空を向いて、マテリア100個マテリア100個と念仏の様に唱え始めた。ティファが、そう言えば流星群が来るって谷の人が言ってたわ。と言った。
バレットが拳を上に突き出して、ビッグス、ウェッジ、ジェシー、俺はやるからな!と叫んだ。レッド13もといナナキが、擽ったそうに鼻をくんくんさせて遠吠えした。
谷の空には、満天の星が、絶え間なく降りそそいでいた。
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「綺麗だな…」
「ああ…」
クラウドは降り注ぐ星をもっと良く見ようと立ち上がった。ザックスも頬杖をついて空を見上げている。
「ずっと見てたらいい。お前が望めば、ずっと見ていられる」
「……本当に?」
「本当だよ」
ザックスが立ち上がってクラウドの両手をとった。そのまま、優しくクラウドに語りかける。
「お前が望めば、どんな綺麗なものだって、ここに映し出して見せる。ずっとここにいればいい。何が見たい?」
「…俺は…」
クラウドは俯いて、逡巡した。さっきから、ザックスはどうしてこんな事ばかり言うのだろう。クラウドは、ザックスの手の中から自分の手を引き抜くと、反対にザックスの手をその手で包み込んだ。
「…帰ろう、列車に」
「………」
ザックスは悲しそうに眉を顰めて口篭った。でも駄目なのだ。この列車は途中下車してはいけないのだ。誰が言ったのか、もう憶えていないけど、クラウドは、絶対に途中下車してはいけない。
クラウドが顔を上げると、もうそこは列車の中だった。ザックスは何も言わずに自分の席に座った。いつもふざけているから、そうは思わないのだけど、ザックスは元々とても精悍な顔つきをしているので、黙っていたらそれだけでカッコいい。
その時その顔を見て、こんな男になりたかったな。とクラウドは思った。セフィロスにも憧憬はあったが、クラウドは確かに、ザックスにも憧れていたのだ。天地が引っ繰り返っても、クラウドはザックスにはなれない。だからこそ彼が好きで、憧れる。
列車が、控えめな音を立てて銀河を進んでいく。ザックスは、クラウドをずっと見つめている。いたたまれなくなって、クラウドは自分の膝を見た。
《次はサウザンクロス、サウザンクロスです》
車掌の平坦な声が、列車の中に響いた。
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作品名:Night on the Galactic Railroad 作家名:അഗത