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Night on the Galactic Railroad

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小さな停車場



「もしもし!もしも~し!」
頭上から呼びかける声がして、クラウドは目を開けた。
「あ、クラウド!聞こえる?体、動かせるかな?」
エアリスがクラウドの頭上から彼に話しかけていた。白い指先がクラウドの頬を叩く。クラウドは手を伸ばして、その指先をぎゅっと握り締めた。エアリスが微笑んでクラウドの指に自分の指を絡める。
「大丈夫、みたいだね…良かった…」
クラウドは天井を見上げた。ぽっかりと大きな穴が開いていて、日の光がのぞいている。クラウドはあそこから落ちて来たのだ。クラウドは、こちらに手を伸ばすザックスの血相を変えた顔を思い出した。作戦中に、倒した神羅のロボットが爆発して、クラウドは衝撃で橋から落下したのだ。どうやら落ちたのはクラウド一人らしい。彼が寝そべっているそこは、彼がエアリスと良く散歩にやって来る教会の、花畑の上だった。
「お花、クッションになったみたいだね」
「………」
クラウドは上体を起こしてエアリスを見た。エアリスが小首をかしげてクラウドを見ている。クラウドは握った手をそのままに、エアリスをぎゅっと抱きしめた。
「わわ、クラウド」
エアリスが驚いた様な声を上げた。どうしたのだろう。エアリスは家を尋ねて来てくれた時、いつもこうやってクラウドを抱きしめてくれる。それは最早挨拶の様なもので、半分慣習になっていたはずなのだが。
「びっくり。クラウドから抱きついて来るなんて、すごいね、進歩だね」
エアリスが華やいだ声でクラウドの背中に手を回した。ぽんぽんと背中がゆっくり叩かれて、クラウドの体の緊張が、少しほぐれる。それを敏感に察したエアリスが、よしよし、と宥める様にクラウドに声をかけた。
「何か、あったのかな?お仕事の途中?」
クラウドがこっくりと頷いた。エアリスが、にっこり笑ってクラウドの頭を撫でた。
「ちゃんとお返事、出来る様になったんだ。えらいえらい」
エアリスが笑ってくれるので、クラウドも嬉しくなって笑った。二人で笑いあって、ほっと息をつく。エアリスがクラウドから体を離して、待ってて、お花のお世話済ませちゃうから。と言った。
クラウドは素直にそれに従って、花畑の上から体を退かせた。エアリスが屈んで、折れた花を補強したり、根っこに土をかけたりしている。
クラウドが暫く大人しく待っていると、教会の入り口から声がした。
「いちゃついてる所、申し訳ありませんが、っと」
二人は振り向いて、声のした方を見た。スーツをだらしなく着崩した、赤毛の男が、銀色の棒を肩にかついで立っていた。電磁ロッドだ。後ろに青い軍服の神羅兵を連れている。
クラウドはエアリスの前に立って、彼女を隠す様に手を上げた。そのぎこちない動作を見て、赤毛の男がにやっと笑う。
「おねえちゃん、こいつ何か変だぞ、っと。ロボットか?」
「違うよ。クラウドは人間。全然変じゃないんだから」
クラウドの服の裾をエアリスが引っ張った。
「行こ、クラウド」
彼女はクラウドの手を取ると、教会の奥に向かって走り出した。

「やっぱりかっわいいねーエアリス」
「そうだな、うん」
言うやいなや、クラウドは踵を返して列車へ歩き出した。
「あれ?もう行くの?」
「……」
「へえー…」
ザックスがにやにや笑いながらクラウドを見ている。クラウドは、なんだよ。とそっぽを向いた。
「いやさ、いちゃいちゃ出来て嬉しく無いのかなと思って」
「っ…そりゃあ…!」
クラウドが言葉を詰まらせる。頬が上気して赤い。ザックスはやっぱし?といいながら、腕を振ってクラウドの肩を抱き寄せた。引き寄せられたクラウドの頬に、ザックスの唇が触れる。
「かわいい。クラウド」
「んな…ッ」
クラウドは耳まで赤くなってザックスを突っぱねた。いいじゃんか~ホントの事じゃんとおどけながらザックスがクラウドの腰に手を回す。
「いきなりキスすんな!」
「嫌だったのか?」
「嫌って…そ、そんな事聞くなよ!」
それは、クラウドだって、ザックスに好かれて、嫌な気はしない。でもいきなりキスとかは、ちょっと、いやかなり、戸惑う。
「別にいいだろ~キスくらい。俺達親友じゃん。減るもんじゃないしぃ」
「親友って、キスとかするんだ…」
「そうだよぉ」
ザックスが間延びした様に言った。普通親友同士ってキスとかしないと思うのだが、クラウドにはザックス以外の友達がいないので、真相は分からない。本当はしたりするのかも知れないと思うと、言い返せなかった。
車掌が乗車口の横に立って二人を見ていた。ザックスはクラウドの腰をがっちり掴みながら、じっとりとした視線で車掌をねめつけている。
「お仲の宜しい事で」
車掌がちょっと笑って言った。片えくぼの下に十字に切り込みの入った傷が見える。ザックスがハッと短い笑い声を上げて嘲笑する様に言った。
「とーぜん」
「…次の停車駅は、蠍の火で御座います」
車掌が、帽子の鍔を持って、深く被り直しながら言った。

作品名:Night on the Galactic Railroad 作家名:അഗത