思考実験①
「知っとるやろ?」
「なにをだ」
「資料やら模型やらが燃えてしもうて、もう無いってこと」
「ああ」
「おっちゃんがおらんようなってからな、建造続けようかどうしようかって議論になってん。このまま作っても、おっちゃんの作りたかったもんは作れへんからな」
「だけど、作り続けてる」
「せや。ずーっと色んな建築家の人達らが、おっちゃんはこう考えとったんとちゃうかなー?て考えながら作り続けとる。来てくれるお客さんたちのお金でな。
「新しく作り続けるんと一緒に、古いとこの修復もしとる。最近じゃ、2256年前後に出来るんとちゃうかなって言われとるけど、俺はもうちょっとかかるんやないかと思う。修復って時間かかるもんやしな」
「・・・それで?」
「で、や。おっちゃんがもし生きとったら、多分こんなんちゃうって言うんやろうなって思ってな」
「まぁ、そりゃそうだろうな。むしろ、そう言う方が自然だろ?」
「せやね。おっちゃんがきちーんと設計図書いとったら良かったんやけど、そうじゃない限りどうしてもおっちゃんの思っとた通りにはならんわ。
けどな、おっちゃんがどう言おうとこれはサグラダ・ファミリアやねん。おっちゃんの、アントニ・ガウディのサグラダ・ファミリアやな」
「ガウディの本当に作りたかったものじゃないのに、か?」
「きっともう、そういうのは関係ないんよ」
「…?」
「これをな、みーんなおっちゃんのサグラダ・ファミリアって思っとる。
ここに来るお客さんも、これ作りよる職人さんも建築家もな。やからこれはサグラダ・ファミリアなんよ。アントニ・ガウディの代表作、サグラダ・ファミリア」
「……」
「これをつくっとるどれだけのモノが、おっちゃんの構想通りで当時の材料かなんか分からんけどな。そんなん関係あらへん。周りの人がどう思ってどう接しとるか、それがこの場合大事なんと思うで」
「……かもな」