花見弁当
「だってさ。集まるに手頃で周囲に酔客も居ないし。」
「学校来んなら毎日来てるじゃねぇか!」
「だって静雄君、周囲に酔客とか居たら一発で警察沙汰でしょ?」
「確かに。岸谷、考えたな。今日は野球部も遠征だし。」
「でしょう?わぁ、門田君に褒められた。」
「つか、ノミ蟲はどうしたよ?!」
「あぁ。折原君ならどうしても妹さん達も一緒に来るって」
きかなかったそうだから
「先にシート広げて待ってるってさ。ホラあそこ。」
なるほど
岸谷新羅が指さす先には
桜の木の下にお約束のブルーシート
小学生くらいの少女が二人座って手を振っており
その後ろに長く
横たわっているのが折原臨也に違い無かった
「新羅さーん!あと知らない人ー!」
「・・・初(初めまして)。」
近づいて見ると
少女達の側には
弁当箱が入っているらしい四角い紙袋や
ペットボトルが入っているレジ袋
菓子類が入っているらしき袋も見え
そして
折原臨也は長々とシートに横たわり
自分の腕を枕に熟睡しているところだった
その上にかけてあるフリースの膝掛けのようなものは
妹達がかけてやったものだろうか
「イザ兄、昨日も今日もお弁当作りで朝早かったから」
さっきまで起きてたんだけど
「・・・眠(眠ってしまいました)。」
「あぁ、そうかぁ。昨日今日と連チャンさせちゃったもんね。」
それは折原君に悪い事したなぁと
岸谷新羅が微塵も悪いと思っていない態度で
さっさと靴を脱いでシートに上がる
「さ。どうぞどうぞ。お弁当いっぱい作りましたからイザ兄。」
「・・・無(ご遠慮なく)。」
いやあの
アイツの作った弁当って毒でも入ってんじゃねぇのかと
さすがにそれを妹達の前で言うわけにいかず
平和島静雄がシートには上がったものの
妹達が次々に紙袋から出して広げていく重箱的な弁当を前に
かなり戸惑っている
「大丈夫だ。あいつ、料理の腕は確からしいぜ?」
と
ポンと門田がその肩を叩かれて
マジかよと静雄はようやく妹の一人に渡された箸を取る
岸谷新羅の音頭取りで各自簡単な自己紹介の間も
妹達に揺り起こされた折原臨也は俺もう少し寝るから
勝手にソッチで始めててよ、と寝返りをうち
仕方無く
折原臨也抜きでの花見の宴が始まった
と
言っても
小学生の少女と高校生
場所は学校の校庭という事で至極真面目で健全な花見だ
「わぁぁ、静雄さんてよく見たらイケメン顔ですよねぇ。」
「・・・好(好ましいです)。」
「はぁ?」
「門田さんも結構イケてます!」
「・・・漢(男前)。」
「ねぇねぇ僕は?」
「新羅さんは可愛い系ですよね!」
「・・・童(童顔タイプで可愛い感じ)。」
「そうかぁ。僕は可愛い系なのか。」
「納得してんだな・・・。」
「いいじゃない、門田君は男前って言われてたよ?」
「別に。・・・まぁいいけどよ。」
「静雄君は真っ先にイケメンて言われたよね!」
「・・・美味いなコレ。」
もぐもぐと
ひたすらに
会話には参加せず弁当を食べていた静雄が
そこで初めて口を開いた
「これ、本当に全部ノ、・・いや臨也が作ったのか?」
「うん、そうですよ?上手いもんでしょ?」
「・・・全・・・兄・・・手(全部兄の手作りです)。」
「ね?言ったでしょ、折原君の料理は美味しいって。」
「確かにな。料理上手ってのは本当らしい。」
「イザ兄はお母さんより料理上手いもんねー。」
「・・・故(だからいつもお弁当係)。」
「いやぁ、人間何か一つは取り柄があるもんだねぇ。」
「新羅さん、何気にソレ酷いです。合ってるけど!」
「・・・合(合ってますけど)。」
「でしょ?」
「さすがに酷いぞ謝れ、新羅。」
「えぇぇ、妹さん達が同意してるのに?」
「それでも謝るのがスジだろ。大体臨也が作ったの」
俺ら
食ってるだけだろうが
と
新羅の頭を下げさせる門田も先程から箸がかなり進んでいる
その隣で静雄は正にモクモクと
ひたすら箸を口へと運んでいる最中だ
「・・・この唐揚げ、すげぇ美味ぇ・・・。」
しみじみとした静雄の声に
その時
ピクリと
眠っているはずだった折原臨也の黒いまつげが動き
やがて
舞い散ってくる
桜の花びらと
同じ色に
折原臨也の肌が染まってゆくのを
見ていたのは
春爛漫の
校庭の
桜の木
だけ
だった