【学パロ時京】付き合うまでのお話。
不覚にも京一郎は時雨の持ち物の中に衝撃的なものを見つけてしまった。四角くて、小さいビニールのパッケージに入った丸い形状のそれは。
(あれだよね…男性が、女性とそういう…時に付ける…)
道中にコンビニで買ったサイダーを取ってくれと頼まれ、部屋の隅に置き去りにされ時雨の鞄を開いたらそれも一緒に出てきたのだった。まだ恋の経験すら無い京一郎は、時雨がそういう関係を誰かと持っているという可能性に少なからずショックを受けていた。どうして自分がそこまで動揺しているのかは分からなかったが、このまま平常心で居られそうにはなかった。
「京一郎、サイダーあったか?」
何も答えない京一郎を訝しく思ったのか、時雨はゲームを一時中断して京一郎へ近付く。背を向ける恰好で座っていたため、その肩越しに手元を覗くと一瞬息が止まった。
「京一郎、それ、は…」
京一郎は我に返って首を左右に振りながらそれをそっと鞄に戻し、サイダーが二本入った袋を時雨に差し出す。
「あ…そうだよね…時雨にも付き合ってる人がいてもおかしくないよね!うん、時雨はかっこいいから…」
「おい、なんか誤解してねぇか?」
「僕…今日はもう帰るね」
慌てて立ち上がろうとする京一郎の腕を掴んで引き戻す。行き場を失ったコンビニの袋は、かすかな音を立てて絨毯の床に落ちた。
「話を聞けよ、それはな…」
「いいよ!別に時雨が誰と破廉恥な事をしようと、僕には関係ないじゃないか!」
「おい、落ち着け。何で怒ってるんだよ」
「怒ってない!」
時雨は顔を真っ赤にした京一郎を立ち上がらせてベッドの上に座らせた。落ち着かせようとその背を優しくさすってやる。
「京一郎、泣くな…」
「泣いてない…」
強がってはみても、京一郎の両目からは大粒の涙が頬を伝っていた。時雨は両手で京一郎の顔を包み込み、親指でそれをそっと拭ってやる。そして噛み締めたその唇を解くように優しく触れ、ゆっくりと口付けた。京一郎は驚いて身体を引こうとしたが、時雨はそれを許さない。
「…っ、しぐ、れ…なん、で…っ」
聞くなと言わんばかりに、口付けはどんどん深くなる。肩を押してベッドに沈めると、大人しくなった京一郎の耳や首筋にも唇を触れさせる。
「京一郎、俺はお前が好きだ」
「へ…?」
京一郎は朦朧とした意識で間近にある時雨の顔を見上げる。
「あれは臣が俺に持たせた物だ。万が一京一郎と、そういう、事になった時の為に」
「僕…と?」
「お前は鈍いから全く気付いてなかったかもしれないけどな」
「え…えええ?!」
京一郎の顔が、今度は別の意味でみるみる赤くなっていく。恥ずかしさのあまり顔を背けたいが、時雨が上に乗っているため身動きができない。
「…お前だって俺の事好きだろ?だから怒ったんだろ?」
「そりゃあ、時雨はかっこいいし、頼りになるし、大切な友人だし…」
「それだけか?俺はお前にとってただのダチか?」
時雨の切実な眼差しが、京一郎を容赦無く突き刺す。ついに京一郎は何も言えなくなってしまった。ついさっき感じた怒り、悲しみ、絶望が綯い交ぜになった感情は嫉妬なのではないか。時雨と親密な関係になっているかもしれない相手を呪いたかったのではないのか。京一郎はこの不可解な自分の心の動きに、結論を出さざるを得なかった。
「すき…なんだと思う」
「思う〜?」
「だって、今まで考えた事なかったし…さっきのも、嫌じゃなかった、し…」
時雨は喉の奥で微かに笑いながら、狼狽える京一郎にもう一度小さく口付けた。
「付き合うか?」
その口元には勝ち誇った様な笑み。普段とは違う男の顔に、心音が跳ね上がる。急な展開に心臓が追いつかないまま、京一郎はうんとだけ答えた。
作品名:【学パロ時京】付き合うまでのお話。 作家名:ありす