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学パロ時京・朝の電車

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通勤通学電車といえば混んでいるものと相場が決まっているが、時雨と京一郎のそれもご多分に漏れず満杯に詰め込まれるのが常だった。

通常なら仕方ない、と諦めて学校までの何十分かをやり過ごすものの、梅雨時ともなれば不快感は倍加する。
密着する湿った衣服、他人の汗の匂い。それらが肌に纏わりつくようで、時雨はあるか無きかのため息をついた。

――京一郎は、大丈夫か?

満員電車でなければすぐ近くに立つものを、停車するごとに押し込まれ押し込まれするうちに間に何人もの壁が出来てしまっていた。それでもなんとか首を巡らして、自分とそう変わらない背丈の頭を捜す。――いた。

数人を隔てて、外を眺めるようにして扉近くに立つ京一郎が見える。ひとまず姿を認めて安心しかけた時に、その違和感に気が付いた。
正面から見えるわけではないからよく分からないが、俯き加減なその顔はやや紅潮しているように思える。微かに眉間に寄せられた皺。不快感を滲ませながら、噛みしめられる唇。よく見れば、その息もやや上がっているような気さえする。

――あいつ。まさか。

その可能性に気づいたとき、すっと血が冷えた。激情に囚われたのはほんの一瞬、迷いなく京一郎の方に向かおうと人を掻き分ける。
周りから漏れる舌打ちも気にならない。幾人かの壁を越えてその先の、京一郎のことしか目に入らなかった。それと、その後ろに密着している、スーツ姿の中年男のことのみ。

「京一郎」
「あ、時雨…」

声をかけられて、明らかにほっとした様子で京一郎が時雨の方を見る。その顔に微笑みかけながら、時雨は後ろに立つ中年男と京一郎の間に割り込むように体を滑らせた。
京一郎を包むように立ちながら、そっと指で印を結ぶ。これくらいなら紙でわざわざ式神を作ってやる必要もない。

その時目の前のドアが開き、学園前の駅のホームに二人は吐き出された。
降りる間際、印契した手をするりと中年男の腕に沿って滑らせる。京一郎には気づかれないように。

「…はあ、降りられてよかった。なんだか後ろの男の人が落ち着かなくて変に僕の方にくっついてきてさ…具合でも悪かったのかな」
「…ああ、そうかもな。大丈夫か?」
「うん。もう大丈夫。行こう」

具合。具合な。ああ、今日一日くらいはたっぷり具合が悪くなって貰わないと割に合わない。自業自得、自分で呼び込んだ因果ってやつだからな。
その日一日中年男が悩まされるであろう右腕の激痛を思って、時雨はくすりと微笑んだ。
作品名:学パロ時京・朝の電車 作家名:aya