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【ジンユノ】SNOW LOVERS

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【 The origin  〜Nobody knows 】



 夢現に何かに呼ばれた気がして目覚めると、バルコニーへ続く窓明かりがうっすら白い。
 夜明けの光かと思えば、枕元の時計は深夜遅くを示している。
 未だ誰もが寝静まる頃合い。その証拠に辺りは静かで、何の物音も聞こえない。
 けれどなら、室内は勿論、窓の向こうも闇の中に沈んでいるはず。

 惹かれるように起きだして窓辺に寄って、そこで彼女は小さな感嘆の声をあげた。
 窓の外はたった一晩で白に塗りかえられている。

 雪だ。


 空から白い雪片がひらひらと、まだ舞っている。
 これだけ積もるのだから、相当激しく吹雪いたのだろう、けれど今は静かだ。
 とても静かな雪の世界。
 夜の中、誰の姿もない。誰に見咎められる事も、多分ない。

 それだけ見てとると、彼女はさっと身支度をして、写真立ての前に置いていた小さな包みをポケットに突っ込むと、相棒の縫いぐるみだけをお供に、そっと部屋を後にした。





 真新しい雪の絨毯に軽い音を立て、未踏の大地に足跡を刻む。
 思った通りの白い世界。音は全て、雪に吸い込まれてゆく。
 ポツリポツリ灯る中庭の街路灯の明かりを頼りに無人の庭を散策する。
 校舎へ続くアプローチの隅にふと目をやると、半分雪に埋もれたバケツが見えた。
 そこまで行って、バケツを雪から救出する。庭師の忘れ物だろうか。
 でも、丁度いい。

 校舎入口の階段状のポーチに相棒を預け、白い光を投げかける街路灯のひとつの根元で、少女は辺りの雪を掻き集め、押し固めて積み上げる。
 少しずつ高くなるそれは、少女より一回りほど大きな太さの雪の柱を作っていく。
 雪の柱はじきに少女の背の高さほどになった。それでもまだ、足りないらしい。
 先ほどのバケツをひっくり返すと踏み台にして底に立ち、まだもう少しと少女は雪を積んだ。
 ややあって、一度バケツを降り、降りたところで積んだ雪の高さを目で計る。
 隣に立って、見上げ、角度を測り、首を傾げてまたバケツに立って高さを調節する。
 何度か繰り返して後、ひとつ頷いて、そこから少女は積み上げた雪を元に、雪像を形作り始めた。

 頭、肩、腕。
 それは玄人作品のような彫像めいた出来には到底及ばなかったけれど、それでも人の形だと、そう判るものになっていった。
 少女は時折、バケツから下りては、ソレを見上げて修正する。
 目線で計る。彼女の記憶にある見上げた時の背丈。肩の位置、目の、顔の位置。
 それから更に仕上げにかかる。顔を覆う長めの髪の形。足に纏いつくような裾の長い服の形。
 アバウトながら記憶の印象を見出そうと何度か手を加え、ややあって、ひとつ、少女は頷いた。

 とても大雑把な人型。それでも彼女なりに満足したものらしかった。



 雪は既に、ほとんど降っていなかった。風もなく、ただ静かな白い世界。



 少女はポケットを探ると、小さな包みを取り出した。


「……あのね。これをね、渡したかったの」


 雪像に向かって、少女は包みを掲げて見せた。



「受け取って……くれると、いいな」


 雪像は動かない。当然だ。
 少女はだから、自らが作った雪像の、その手と身体の隙間にそっと、包みを押しこんだ。
 そうすると、まるで雪像が包みを抱えているように見える。

 少し離れてそれを見て、満足したのか少女は儚げに微笑んだ。
 それからもう一度、バケツの上に乗る。


 こうしないと、少女の背丈では届かないから。


 そうして彼女はそっと、無機質な雪像の冷たい唇に自分のそれを押し当てた。




「一人じゃ淋しい、ですよね。……そうだ、待ってて。タマも一緒に」

 そう、何やら思い付いたらしい。
 辺りの雪は、あらかた使ってしまっていたから、少女は次のひとつの為の新しい雪を求めて雪像に背を向け、少し離れた場所へと向かう。




 上空では雲間が切れて、月が顔を覗かせようとしていた。
 止む前の名残のような雪がひとひら、街路灯の明かりに白く浮かび上がった雪像の上に舞い落ちる。







                天に咲く花は、地上に魔法を連れてくる。





                                <FIN>


作品名:【ジンユノ】SNOW LOVERS 作家名:SORA