【APH】無題ドキュメント
「…なら、お前、俺に構ってないで逃げろよ。もうすぐ、ここにはナポ公の軍が攻め込んで来るんだぜ」
それは間もなくだろう。自分の命運は尽きかけているのだ。それにこんな小さな子どもを、自分の大事な民を巻き込むつもりはない。
「…嫌だ。…やっと、見つけたのに」
首を振る子ども。それにプロイセンは困ったように眉を寄せた。
「…おれと同じ存在…」
プロイセンの目に子どもの青が落ちる。すとんとその言葉に目の前の子どもが、何なのかをプロイセンは知った。
「国家殿!!」
それと同時に馬が地を駆ける蹄の音が響く。その音のする方へ視線を向ければ、プルシャンブルーの軍服。馬を降り、駆け寄ってきたのはプロイセンの側近、ヘルマンとその部下達だ。…どうやら、命を拾ったらしい。まだ、親父は俺に来るなと言っているのか…プロイセンは口端を歪ませた。
「国家殿、大丈夫ですか?」
「…おう。何とか、生きてるぜ」
襤褸切れ同然の身体を抱き起こされ、担がれれる。それを小さな子どもは見上げ、プロイセンを仰ぐ。
「国家殿、この子どもは?」
戦場に似つかわしくない小さな子どもを見咎め、ヘルマンは肩を貸したプロイセンを見やる。
「…俺の…そうだな、天使だ。丁重に扱えよ」
この子どもは自分にとって天使なのだろう。自分に生きる意味を与えたのだから。
…親父、俺、お前の遣り残したことをまだ果たせてなかったな。…だから、まだそっちには行けそうにねぇよ。
プロイセンは微笑うと血の巡り始めた神経の戻った重い腕を上げた。
「…お前が俺を望むと言うのなら、この手を取れ……。……Reich」
迷うことなく子どもは手を伸ばし、汚れることも構わず血に土に塗れたプロイセンの手を取った。
ああ、これが俺の生きながらえた意味か。
握り返された手の温もりに新たなる拠り所を見出し、プロイセンは目を閉じた。
おわり
※Reich(独語)=帝国
※wiki引用
作品名:【APH】無題ドキュメント 作家名:冬故