うつらうつら
梵天は髪をかきあげながら廊下を行く。
「はあ、まったく」
ひたひたと奥へ進むにつれて肌に触れる空気が、踏みしめる床の板が、冷たく感じられるようになる。こちら側はほとんど陽が射さない。昼の光から逃れて息を吐きながら廊下の果ての数寸開いた戸を引き、物置と化した暗い部屋に足を踏み入れた。北の隅のそこは、風も吹かぬのに涼やかで、襟首が楽になるようだった。
箱やら包みやらが雑然と押し込まれていて、いかにも何かしまいこまれていそうだ。
しかし、たんすか、箱か。どこに入っているか見当もつかない。
「どこへ仕舞ったんだか……」
部屋を見渡すと目の端に、気配を感じる。入り口に近い棚の陰に変な生き物があると、気付かねば良いのに気付いてしまった。緑色。ぐしゃぐしゃに乱れた白い衣。赤い字は下敷き。
それは目をつむり、丸まって、ささやかに寝息を立てている。近くて、膝を折りさえすればつねれそうだった。
「ああ」
梵天は眉をしかめ、それから足元を見る。あたかも、一瞬の迷いを感じたかのような仕草で。
「あの辺か?」
ただ呟いて足を逸らし、小部屋の奥に踏み入った。探し物を見つけ出すために。
ごそ、ごそ、あちらこちら引っ掻き回すが、出てこない。もう何十分探したかわからない。けれど、ひっそりとした空間にいるのは不思議と厭ではなく、閉め忘れた戸に日暮れが忍び寄っても知らぬ振りをした。
そういえばこの辺りだった気がするので、箱をひっくり返すことにした。がらがらごとりと、遠慮の欠片もなく音を鳴らせて。関連性がありそうでない雑多な品々が転がり落ち、それぞれぶつかり合う。
しゃがみ込む梵天の余った裾を踏んだのは古ぼけた書物で、全く違ったので後ろへ放る。大きな金属音が響いて振り返れば鍋に当たっただけのことで、その向こうの露草は眉をしかめて後足を抱えたけれど、未だうつらうつらと揺れていた。
鍋の転げた残響が消えて、息の音だけ残ったのが耳に聞こえる。
蹴り飛ばさなかったのは、聳え立つがらくたの山を超えねば届かなかったからに過ぎない。