cat nap
アムロが雨の中拾った子猫の貰い手を探すために、懇意になっているパン屋に張り紙をさせて貰って一か月。
犬種ならぬ猫種が判らない為か、なかなか引き取り手が見つからない。
お蔭で私はアムロに放りっぱなしの扱いを受けている。
彼に言わせれば、そんな事ない!と言うだろう。
だが、意識の一部でも余所に向けられる事が嫌な私にとって、子猫の存在は無視できぬ出来事なのだ。
今日も朝から彼の膝の上には、かの子猫が鎮座して惰眠をむさぼっている。
「寝る子だから猫」と日本語では言うそうが、なるほど。ほぼ一日中寝ている印象を受ける動物だ。
アムロにおもちゃで遊んでもらったと思えば、すぐに膝の上で眠りだす。
彼が家事で立ち上がれば不安そうな声で鳴いて、アムロの気を引く。
「あざとい」とはこの猫のする事だろう。
私は猫を見ていたくなくて、庭に渡したロープに干していた洗濯物を取り入れに出た。
五月の爽やかな風と日差しが、洗濯物をふんわりと乾かしてくれている。
その事に私は気分を良くし、軽やかに取り込み作業を行って、リビングの床に置いたランドリーバスケットに一山目の洗濯物を入れた。
二山目の洗濯物を取り込んで持っていくと、一山目の洗濯物の山の上に茶色の丸い塊が・・・
幾分かは上昇した気分が、一気に下降する。
「アムロ…」
「ん?」
「君の保護した者が、せっかくきれいにした洋服を汚しているのだが?」
「大丈夫だよ。さっき入念にブラシングしたところだから」
「……」
「それに、しょうがないよ」
「しょうがない? 何がだね。清潔にした洋服が猫の下敷きになっているのだよ?!」
「ん〜。オレがこいつだったら、きっと同じ事してると思うよ」
「同じ事?」
「うん。だって、日にあたった洗濯物やクッションとかって、すごくいい香りするだろ? こうして置いただけで、お日様の香りがする。猫じゃなくたって、これに包まれて寝たいって思うって」
「君も?」
「うん。シャアはそう思わないか?」
「私はどちらかと言えば、日差しを浴びた後の君の髪の香りが好きだがな」
「へぁ? オレの髪ぃ??」
「日差しの香りと言うなら、私にとってはそちらだと言うだけだ」
「じゃあ、その香りがあったら、貴方、うたたねしたくなるのかよ」
「そうだな。多幸感に包まれて、そのままうつらうつらとするだろうね」
「……ふ〜〜ん」
アムロはそう言って暫く思案する表情をしたと思ったら、おもむろに私の手を取るとカーペットの上に引き倒した。
そして、私の胸に顔を埋める様にして、彼も横になる。
「なっ?!」
私は驚きに息が止まった。
手にしていた洗濯物が私たちの周囲に散らばる。
「あははっ。幸せの香りがオレ達を包んでくれたよ♪」
アムロが謡う様に告げる。
その声に、私は吐息を零さずにはいられなかった。
闘い続けていた私たちが、今は一緒にこうしたありふれた日常に存在する香りに幸福感を感じている。
その僥倖に、鼻の奥がツンッと熱くなった事を、私は必死に隠したのだった。
半時の後
リビングからは穏やかな寝息が三つ聞こえた事を知るのは、
カーテンを揺らす初夏の風だけだった。
2014.06.01