二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
No.017
No.017
novelistID. 5253
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

豊縁昔語―霊鳥の左目

INDEX|1ページ/1ページ|

 
ネイティオ

みぎめは みらいを ひだりめは かこを みていると つたえられている。 いちにちじゅう ネイティオが じっとしているのは みらいよちで わかった おそろしい できごとに おびえているからだと しんじられている。

ポケモン図鑑より抜粋



■霊鳥の左目



 昔むかし、力を持ったポケモンは人語を操れて、神様と呼ばれていた頃のお話です。
 中津国の南にある豊縁という国に、一人の仏師がおりました。

 仏師の一族は代々ネイティオを霊鳥と呼び、神の使い、あるいは神そのものとして信仰しておりました。
 仏師は仏像を彫るのが仕事です。
 特に彼は霊鳥像を好んで彫って彫っておりました。
 男の寝泊りするお堂には今まで彫ったネイティオの像がたくさん並べられておりました。

 ネイティオは右目で未来、左目で過去を見ているとされています。
 でもそのネイティオ像はどれも両目が閉じられていました。
 それは未来を怖れることなく、過去に縛らることなく、今を生きなさいという教えでありました。
 事実、両目を閉じたその表情は見るものに安らぎを与えたのです。

 男は里の仲間達と共に、ネイティオの姿を彫りだしてはお堂に並べていました。
「いずれ千の霊鳥像をここに並べよう」
 それが彼らの夢であり目標でありました。

 その頃の豊縁は混乱の時代にありました。
 相反する色の、二つの部族があちこちで争っていました。
 色を巡る争いは豊縁全土に波及しました。
 どちらの色にも属さなかった者達は、どちらかの色になることを強要されたのです。
 小さな国や里が巻き込まれ、どんどん吸収され、併合されて、彼らの信仰や信ずる神様はどんどん姿を消していっていたのです。
 彼らはそれらを消すまいと、信仰の証を残そうとしたのかもしれません。

 けれどある夜、どこからか赤い装束の男達がやってきて、お堂に火をつけました。
 赤々と燃えるお堂、燃え落ちていく像たち。
 なすすべもなかった仏師は、製作中の一体だけをなんとか運び出すと人目につかぬ所に隠しました。
 仏師たちを取り囲み赤の装束のお頭が言いました。

「邪な信仰を持つお前達の雇い主は失脚した。お前達に新しい仕事をやろう。今我らが都では、仏師が足りぬ。お前達は都へ行き、我らが神の姿を彫るのだ」

 こうして後ろ盾を失った仏師達は、赤の都へ行くことになったのです。
 残ったのは先に挙げた男、ただ一人だけでした。



 失意の中、男は続きを彫り始めます。
 男の目の前で霊鳥はしずかに両目を閉じておりました。
 彼はそっと霊鳥を横に倒すと、両目を閉じていたその像の左目の瞼(まぶた)にノミをつきたてました。
 そうして後世に伝わったのは左目だけが見開かれた霊鳥像でした。



 ネイティオは右目で未来、左目で過去を見ているとされています。
 閉じられた右目は奪われた未来を、開かれた左目は過去を忘れないように。
 男はそういう意味を込めて、像の左目にノミをつきたてると、穴をあけました。
 そうしてその中に、黒硝子の目玉を入れたのです。



 時が経ち、人がモンスターボールにポケモンを入れて歩く時代になりました。
 仏師はもういません。
 かつて豊縁全土に及んだ争いも遠い遠い日の出来事となりました。
 今ではそれを知る人もほとんどいないのです。

 けれど、残された霊鳥像は今でも左目だけを見開いて立ち続けています。