恋愛相談.臨也編。
side.静雄
全く持って親しくもなんともないヤツが、聞いてもいないのに悩みを零し始めた。
多分、俺以外の誰かに話しているだろうと靄がかかった頭が判断する。この教室には俺たち以外誰も居ない気がしたが、きっと馬鹿にしか見えないクラスメイトでも居るのだろう。
聞かないふりをしてやろうと再び机に顔を伏せれば、髪をつん、と引っ張られた。
「ねぇ、ちょっと聞いてる?」
「……ああ」
なんだか悲しそうな顔をしやがったので、一応相槌だけは打つ事にする。
「それでさ、多分間違いないと思うんだ」
「へぇ。まぁ、そうなんじゃねぇの」
正直、どうでもいい。
「だよね。絶対、あれは俺の事意識してるよね」
こいつはさっきから、最近よく目が合うヤツが居るという話をしていた。つい目で追ってしまう人がいて、すると相手も視線に気付きすぐに見つめ返してくる。これは自分の事が好きなのじゃないかという…まぁ、なんというか高校生としては別段珍しい会話でもないと思う。
ただしそれは、俺達が普通の友達だったならば、という前提での話だ。
俺の事をバカみたいな名で呼ぶこの馬鹿と俺の会話としては異常だ。顔を見合わせただけで喧嘩が常識の俺達が、放課後の教室に二人っきりでおかしな会話をしている。なんだ、俺はまだ目が覚めていないのか…?
「あれ?シズちゃんあれだけ寝てまだ眠いの?どんだけ成長期なんだよ」
「うっせ。手前こそ、なんでこんな時間まで残ってんだよ」
授業時間が終わったのも気付かずに眠っていた。
そんで起きたら、ノミ蟲が待っていたとばかりに語り出したのだ。
「そりゃ、シズちゃんに話さなきゃならないからに決まってるじゃない」
「ああ?なんでだよ」
「シズちゃん、俺が好きなんでしょ?さっき自分でそう言ってたじゃない」
「………は?」
会話に全くついていけない。
ついていく気もなかったが、この状況で置いていかれるのは不味い気がする。
「あのね…俺も、シズちゃんが好き」
ちょっと待て、何で照れてるんだこの馬鹿?!
てか、顔が近い。マジで近い。いや、なんで馬鹿は目ぇ閉じたんだ?
……なんか今、生温いモノが…え??
「じゃあ、今日から恋人かぁ。宜しくね、シズちゃん」
人のファーストキスを軽々と奪った馬鹿が、にんまりと笑う。
誰か、こいつに日本語を…いや、人類と正しく意思疎通する方法を教えてやってくれ…!!