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少女Mの独白

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 栗色の髪を揺らしてあたしを見る、亜弓さんはなによりあたしの心を惹きつける。舞台でも、雑踏の中でも、亜弓さんは光を放ち目を奪う。一体どれだけのひとがこの美しいひとに夢中になってきたんだろう。
 ああ、あたし、もっと綺麗だったらよかったのに。亜弓さんの傍にいても不自然じゃないくらい、もっと綺麗で、もっと才能にめぐまれていたらよかったのに。
 実際には、あたしは平凡な顔を持つ、なんのとりえもない女の子だ。亜弓さんがあたしの才能を認めてくれて、ライバルだって言ってくれたこと、嬉しかった。だけどあたし今でも、亜弓さんが認めてくれるような才能を自分が持っているなんて信じられないの。だってずっと小さな頃から、愚図で不器用で、なにをやってもだめで、かあさんにもなんのとりえもない子だって言われ続けてきたから。
 でも、演技をしているときはそんなこと忘れられる、別の人間の別の人生を送ることができる。あたしじゃない人間になれる。そのことが嬉しくて、楽しかった。ただそれだけで、うまくやれてる自信なんてなかったの。先生やつきかげのみんなや紫のバラのひとが認めてくれて褒めてくれても、嬉しかったけど、それでも自分を信じることなんかできなかった。ただ必死でやっていただけ。
 だからそんなあたしの目には、亜弓さんはいつだって眩しく映っていたの。亜弓さんはなにより自分のこと信じているのね、だからそんなに美しいんだ。うらやましかった、最初に亜弓さんに出会ったときから、あたし亜弓さんに憧れて、うらやましくてたまらなかった。亜弓さんはなんでも持ってる、立派な両親や美しく整った姿や、いろんな才能。でもなによりうらやましかったのは、亜弓さんが持ってる自信だったの。自信に満ちた亜弓さんの姿がうらやましくてたまらなかった。あたし何より自信がほしかったのかもしれない、自分を信じる力が。亜弓さんは努力してそれを勝ち取ってきたけれど、あたしどれだけ努力しても自分を信じられなかった。舞台に立っている間、あたしはあたしじゃなくて、なにもかも夢のなかのできごとみたいで、あの時間すべてが北島マヤのものだなんて、今でも信じられない。
 だけれど、亜弓さんがあたしを見つめて、ライバルだって言ってくれて、誰もが無理だと言うなかで、あたしを信じて待っているって言ってくれて、あたしようやく、本当にようやく、自分を信じられた気がするの。亜弓さんが信じてくれている、そのことだけがあたしを支えてくれた。亜弓さん、あたし、亜弓さんと並びたい。亜弓さんの隣に並んでいても、誰も文句を言わないような女優になりたい。あたし、うまくなりたい。亜弓さんに軽蔑されるようなこと、したくない。亜弓さんがあたしをずっと見ていてくれるように、もっともっと、うまくなって、ずっとずっと亜弓さんに見つめられていたい。ずっとずっと、亜弓さんに信じていてほしい。
 お芝居をしなければ、あたしどうやって生きていったらいいかわからない。そのぐらい演じることはあたしにとって大事なことで、その場所に亜弓さんもいてくれることが何より嬉しいの、演劇を始めてよかったって思えるの。亜弓さん、見ていて。あたしこれからも必死で頑張るから、見ていて。そしてずっと、亜弓さんの姿をあたしに見せてください。舞台の上でも、雑踏の中でも、いつだってどこだって、あたしにその、自信に満ちた綺麗な瞳を見せて。亜弓さん、亜弓さん、どうか。
作品名:少女Mの独白 作家名:ことは