闇の底
怒りに屈したと言われた。
確かに怒りを力に変えれば生きていけると思っていた。
でも、こんなことは望んでいなかった。
「お前は強情だな」
「・・・・・・・」
無言で睨み付ければフッと笑われる。
それが癇に触る。
「それを崩すのも楽しみの一つなのだがな」
そう言うが早いか身体は囚われて壁に押しつけられた。
触れられたところから伝わって来る怒りの波動。
共感による苦しみと共にジワジワと湧き上がって来る衝動。
それが快感と言うモノだと知らされたのはここに来てすぐだったと記憶している。
「・・・・っ」
「素直に怒りを感じれば楽になる」
「ぁ・・・・・・くっ」
「お前には素質がある、コノエ」
名前を呼ぶと同時に耳を食まれれば快楽に慣らされた身体は簡単に陥落する。
「・・・名前を呼べ」
「ぅ・・アッ・・」
尾の根元を緩急を付けながら揉まれる。
「私の名を・・・」
「ァア・・っは・・・・・」
首筋を甘噛みされれば自然と甘い声が漏れた。
「コノエ・・・」
「らぁっ・・・アッ・・・」
緩々と熱を煽る手を憎々しげに睨み付けるが欲に濡れた目は強請るようにしか見えない。
心に反して高まっていく身体。
決定的な熱は与えられないまま快楽の波に呑まれていく。
「さぁ・・・」
「ァ・・・ッ・・・い、やだ・・・・・あっ・・・」
それは最後の一線。
その名を呼べば、怒りを求めることになる。
怒りに完全に屈する事になる。
僅かな理性でもって首を横に振れば嬉しそうな声。
「本当に強情だ。だが、いつまで持つか楽しみだ・・・」
「アァッ・・・・ふっ・・、ん・・・」
自分はいつまで求めずに居られるだろうか。
憤怒の名を、"ラゼル"を、呼ばずに居られるだろうか。
闇に消えそうになる意識を必死に繋ぎ止めながらそれだけを思った。