かささぎの。
それなのに。
「……?」
封筒の中には、白紙の便箋。そして、水鳥か何かの鳥だろう、白く大きな羽が一枚、挟まれているきりだった。普段なら短いなりに気持ちのこもった手紙があるのに、なぜか一言も記されていない。
何かの暗号だと見るべきだろうが、ヒントも何もない。気づかないだけで何か手がかりがあるのかもしれない、と封筒や便箋をにらむように見つめていると、背後から唐突に声をかけられた。
「おや、ヒューゴどうしたんだい?」
「母さん……」
途方にくれて見上げると、薄い笑みを浮かべながらルシアが近寄ってきた。ヒューゴの手から封筒と便箋をひょい、と抜き取る。
「どういう意味だと思う?」
「……ふん、なるほどねぇ」
自分の目には何の手がかりも無いように見えたが、少なくとも自分よりいろんなことを知っている母親にとっては、また違ったらしい。そろりと尋ねると、訳知り顔の微笑と同時に封筒を返された。
「その羽が何よりのヒント……と言いたいところだけどね。去年の今頃を思い出してみな」
「去年の今頃って……、……あっ!」
ルシアの言いたいところを察知して、ヒューゴは大きな声を上げた。
昨年、まだクリスたちと一緒にビュデヒュッケ城に居た頃、初夏のこの頃にお祭りがあった。大陸の東から伝わったその祭りは、一年に一度だけ会うことを許される天の恋人たちにちなんで、恋しい人との願いを星に託すというものだった。
そして、天の恋人たちの橋渡しをするのが……大きな、白い鳥。
「ま、何か返事を送ってやりな」
納得したヒューゴにそれきり興味を失ったかのように、ルシアがさっさと立ち去る。その後姿をぼんやりと見送りながら、ヒューゴは恋しい人の名を小さく呟いた。
「クリスさん……」
『会いたい』
そっと、羽にくちづける。クリスの香りも何もしないけれども、確かにそこに気持ちは託されていると思えた。
ヒューゴとクリスの間には、橋渡しをしてくれる鳥は居ない。けれど……ならば、会いに行けばいい。誰に禁じられているわけでもない。ただ、互いが忙しくて、時間が合わず、会いに行く暇が無いだけだった。あと、ひたすら忙しいクリスに遠慮していた部分もある。自分が会いに行けば、クリスはきっと無理してでも時間を作ろうとするだろう。その結果、身体を壊しかねないところが、クリスにはある。
けれど、互いに遠慮しあっていたら、いつまでたっても進まない。クリスが『会いたい』という気持ちを、わかりにくいけれどこうして伝えてくれたなら、今度は自分の番だ。
(待っててね、クリスさん)
必ず、会いに行く。