グラスに水を注ぐように
ラゼルの魔力が満ちた空間でゆっくり注ぎ込むように、作り変えるように愛された。
それが長かったのか、短かったのか知る手段もなかったけど、気付けばいつもラゼルの傍に居て。
触れて、触れられて。
ある日突然変化した。
いや、変化自体はラゼルの傍に居た時から始まっていたのだろう。
徐々に満たすよう、慣らされるように当たり前に魔力は傍らにあり。
その魔力はラゼルのものしかなかった。
周りに満ちて、身体を浸していた魔力は確実に身体を猫とは違うものへと変えていった。
だからこそ外見の突然の変化に対して違和感が少なかったのだろう。
黒く艶やかな尻尾で気付いた変化に首を傾げる。
それがラゼルのものと似ていると気付き頭に手をやると固く少し冷たいような不思議な感触。
根元から先まで手を滑らせ形を確認する。
そのまま頬に手をやり、顔の横の器官へと手をやる。
猫とは違うそれ。
でも確かに音を拾っているようで手で閉じたりしながら確認していく。
ラゼルの膝の上でペタペタと自分の身体を確認するように触れるとクツクツと笑う声がした。
「そんなに不思議か?」
「だって、産毛がないし・・・ラゼルの声の聞こえ方も変だ」
ラゼルが尻尾に触れる。
形を確かめるように何度も触れ、片方の手で角を撫でられる。
ラゼルが角に触れるとゾクリッと背筋を何かが這い上がった。
自分で触ったときも殆ど感触がなく、神経など通ってないはずなのに・・・
「少しばかり残念だな・・」
「なに、が?」
「ヴェルグではないが猫の耳も尻尾も気に入っていたのでな」
「猫じゃない俺はイヤ?」
そう尋ねればキスが落ちてくる。
「コノエの変化は俺のモノになったからだろう」
「うん・・・そうだよ」
「なのに何故嫌がる必要がある」
面白がるように尻尾や角を弄びながらラゼルが囁く。
「だって、猫のほうがいいんだろ?」
「気に入っていた、と言ったろ」
「う・っ・・、・・・ん」
唇に教え込むようにキスされる。
「今のお前のその角も尻尾も全てが愛しいと思っている」
そう言ってラゼルが角に舌を這わす。
その微かに感じる感触が何故か身体の熱を煽って、腰に熱を落とす。
「でも、何で今頃、変化したの?」
「無理矢理魔力を与えたわけではないからだ」
徐々に溜まる熱に少しずつ舌が回らなくなっていく。
「無理に与えてお前が壊れたら困るからな・・・」
コノエに注がれた魔力が溢れた時にその魔力を逃さないように、引き止めるように。
相応しい器に変化しただけのこと。
そう言って服などまるで意味のないもののようにラゼルの手が動き回る。
「んっ・・・、・・・ラゼルなら・・・」
「何だ?」
「ラゼルなら・・・壊してもよかったのに・・・」
漏れる息に途切れながら声を吐き出す。
それは甘い睦言でしかなく。
それにコノエにはよく見せる笑みを浮かべるラゼル。
「俺は永の時を望んだだけだ」
「ぅん・・・俺もそっちの方が、嬉しい」
コノエが艶やかに笑う。
そうして悪魔とたった一匹の眷属しか入れない空間は閉じる。
ただお互いだけを感じる為に。
作品名:グラスに水を注ぐように 作家名:あきら