戯れ
目が冴えている。
悪魔になると睡眠すら必要としないのか。
暗い中に薄ぼんやりと明かりが灯る。
これも俺が暗いと感じたから。
どうすれば力が働くのか、本能で判る。
あれだけ怖かった炎も今ではとても身近だ。
手の平で転がし、弄ぶ。
熱くもないし、何も感じない。
そうやって一人で遊んでいたら声が聞こえた気がした。
その声に耳を澄ませ、辿る。
次の瞬間には来た事も無い森の中。
緑はまだ虚ろに侵されては居ないらしい。
周囲をぐるりと見渡し、最後に俺を呼んだらしい猫に視線が止まった。
「あ、悪魔……」
怯えた声が心地よい。
「呼んだだろ?」
ねっとりと纏わり着くような声が喉を震わす。
猫だった時と変わっていないはずの声がここまで別の色を点しているのは何故だろうか。
些細な疑問は直ぐに消える。
だって、目の前には獲物が居るのだから。
「お前が、俺を呼んだんだ」
言い含めるように猫に近づき、囁く。
目を覗き込むように見つめて、微笑む。
どうしたら堕ちるのか、それだけを考える。
「さあ、望みを」
面白いくらいに目の前の猫は堕ちていった。
「遊んできたのか?」
戻ると主の声が響いた。
ずっと視線が追って来ていたことを知っていた。
「ふふ、知ってるくせに」
甘えるように喉を鳴らせば手を伸ばしてくる。
玉座に座ったまま動かない俺の王。
近づき、躊躇いも無く膝に乗り上げた。
「ずっと見ていただろ?」
「さてな」
「……アンタの視線が熱くて、我慢できない」
強請るように唇を舐め、蒼い目を見つめる。
薄っすらと笑みを浮かべる唇に再び唇を寄せ、慈悲を乞う。
先を促すように口が開かれ、舌を差し入れた。
教えられた通りに動かしていく。
全てラゼルの色に塗り替えられた体は燻って堪らない。
「お願い、ラゼル」
息継ぎの合間に甘く囁き、ラゼルにだけ見せる淫蕩な笑みを浮かべてみせた。
期待に震える体も、既に雫を溢れさす自身も何もかもラゼルを望んでいる。
ただ戯れに与えられる灼熱の時を。