癒し、癒され
ライは俺に頼らない。
確かに俺は強くないし、世間知らずで方向音痴・・・だし。
頼りにならないことは分かっている。
でも、ツライ時にはツライと言って欲しい。
プライドの高いライが言う筈が無いと分かっているけど。
久しぶりの藍閃。
久しぶりのバルドの宿。
賞金稼ぎとして名が知れ渡るようになってきてから中堅所の妨害にあったりもするようになった。
だからこそ安心できる宿で休めることがありがたいとしみじみ思う。
相変わらずライはバルドの料理に手をつけようとしない。
何時ものことと気にすることなく食事をし、いつもの部屋で夜を過ごす。
暫らくは疲れを癒す為に休暇を取ることは既に話し合っていて、今日は早く寝ようとベッドに潜り込んだのだ。
布団の温もりにすぐ睡魔が訪れ、夢も見ない眠りへと引きずり込まれていった。
しかし数刻もしないうちにコノエは目を覚ました。
隣のベッドを見れば普段以上に眉間に皺を寄せ眠るライ。
「っ・・・、くぅ・・・ぁ」
悪夢に魘されているのか呻き声が聞こえる。
こんな夜、コノエはどうしようもなく哀しくなるのだ。
そっと自分のベッドを降りるとライの傍へと歩み寄る。
近づいても気付かないほどに悪夢に囚われているのか、ライは目覚めない。
少しでも癒されるようにと眉間の皺に唇を寄せる。
気付いて。
傍に居るから。
囚われないで。
愛しているから。
触れれば流石に気付いたのかライが薄っすらと目を開ける。
「コ、ノエ・・・」
「・・・ライ」
掠れた声で名前を呼ばれる。
「起こしたか・・・すまない」
「何で・・・謝るんだよ!」
ライが謝罪の言葉を言った瞬間、自分の中で何かが切れた。
睨みつける様にして言えば驚き目を見開くライの姿。
「俺が、魘されてる時は気にするなって、抱締めてくれるのに・・」
溢れ出た感情を止めるすべはなく。
「何で俺が同じ事をしたいと思ってるって気付いてくれないんだよ」
激情のままに言葉は零れる。
「泣けよ!苦しいって、助けてって・・・」
何時だって守られてばかりで。
「なんで我慢するんだよ!?」
助けられてばかりで。
「俺は、そんなに頼りにならないのかよ!」
負担掛けてばかりで。
「必要と・・してよ・・・」
苦しかった。
「俺は・・・アンタのつがいじゃ、ないのかよ・・・」
一緒に居るのに、傍に居るのに、助けにもなれない。
そんな自分が一番嫌だった。
胸が詰まって、苦しくて、涙が出る。
溢れる滴を拭うこともせず、ただ愛しい白銀を見詰める。
「俺なんか・・・必要ないじゃないか」
大切な猫が苦しんでる時に何一つ出来ない己など必要ない。
その思いを言葉にすれば腕を引かれ、抱締められる。
「誰が、そんなことを言った」
低く這うような声が頭上から響く。
「必要ない筈がないだろう」
「でも、・・・」
「俺がまだ正気を保って今此処に居られるのはお前が居るからだ」
腕の力が強く、少し苦しい。
けど、止めようと思わない。
「傍に居てくれるだけで十分助けられてる」
「でも、俺はそれじゃあイヤなんだ」
これは我侭なのだと分かっている。
「アンタの弱いところも守ってやりたいんだ」
腕を背中に回し強く抱締める。
「そう思ったら、ダメなのかよ・・・」
ライの胸で篭った声はか細く、ちゃんと聞こえたのか分からない。
でも、ライの腕が少し弱まり困ったように尻尾が身体に触れる。
「・・・・・・・ダメではない・・・」
数拍の間が有り返った答えにライを見上げる。
其処にはバツが悪そうな顔をしたライ。
「・・・コノエ」
「何?」
「歌を・・・」
「うん・・・」
「・・・歌ってくれないか」
穏やかな表情でライが言う。
「この腕の中でお前が歌ってくれるならそれだけでいい」
抱き込まれたままライのベッドで横になる。
暫らくして甘く温かい旋律が部屋を満たし、それも光を残して溶けた。