月夜の約束
怪我自体は軽く、それほど掛からずに完治する程度だった。
ただその日から町に着けば別の部屋を取り、野宿中は見張りと言って共に寝ることがなくなった。
ライが怪我のことを気にしているのは分かる。
しかし何を考えてこのような行動を取っているのかがコノエには分からなかった。
今日も別々の部屋で休むことになった。
一部屋のほうが金銭的にも楽だと主張してもライが聞き届けることは無く、夕食後コノエはベッドの上でまんじりと過ごしていた。
「ライ・・・」
窓の外には陰の月が煌々と辺りを照らしている。
明日から長距離を移動することになっているから早く休まなければいけないのに。
睡魔は訪れそうになく、月に誘われるように外にふらりと出たのだった。
月の光は冴え冴えとしていて、つがいの闘牙を思い起こさせた。
光の中に居るとまるで抱締められているかのようで。
コノエはギュッと自分を抱締めた。
「・・ライ・・・・ラ、イ」
必要以上に触れてこなくなった闘牙に不安が募る。
闘牙でもあるくせに攻撃をかわしきれなかった自分に呆れたのではないか。
もう、自分など必要じゃないのではないか。
そう思うともうダメだった。
涙が込み上げ、溢れ、零れた。
次々と流れ落ちる滴をそのままに月を見詰めていた。
空気がフワリと揺れ動き後ろから抱きかかえられ、頬を伝う涙を拭われた。
それはよく知った気配、温度で。
コノエは振り向いた。
「ラ、イ・・・」
別の部屋で休んでるのだ。
眠りの妨げになるはずがない。
なのに何故ここに居るのか。
「・・・なんで?」
「泣くな・・」
質問には答えず、労わるように頬を撫でる。
その指の動きは優しく、じんわりと温もりを与える。
「俺が、要らなく、なったんじゃ・・・」
なかったのか?
最後まで言う前に近づいてきた唇で飲み込まれる。
ゆっくりと溶かすように、宥めるように角度を変えて何度も口付けられる。
手は優しく長くなった髪を梳く。
開放された時には息が上がり、ライに支えられてなければ立って居られなかった。
何故?とライを見上げた。
「ラ・・・イ?」
「お前を手放すつもりなど毛頭ない」
「でも、最近ずっと俺を避けてた・・・」
不安は消えない。
だって、俺はライじゃないから。
ライの気持ちなんて分からないから。
「・・・お前が、怪我をしたとき・・・・・・動揺した」
そっと右肩を撫でる。
もう跡が残るだけの傷をなぞるように。
「それから怖くなった・・・お前を守れない自分が腹立たしかった」
泣いて赤くなってるだろう目元に口付けられる。
無性に抱締めたくなった。
この愛しい闘牙を。
心のままに抱締める。
今までの分まで・・・
「俺はここに居る」
腕の力が強くなる。
「一匹にしないで、いつも一緒に居て」
ライの眼を見詰める。
「俺は信じてるから。絶対ライが助けてくれるって」
そう、信じてる。
誰よりも大切で、愛しい、俺だけの闘牙を。
「だから、もう一匹にしないで・・・」
「あぁ・・・」
神聖な誓いのように唇が降ってきた。