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塩焼さばと
塩焼さばと
novelistID. 17471
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fukuara summer

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「ではこちら、14時50分からの回ですね。三番シアター、開演30分前から入場できます。」
「ウイーース」
先週から公開が始まった人気SF映画のチケットを二枚購入して、荒北靖友は券売待機の列で賑わうチケット売場から足早に抜け出した。
軽く周囲を見回して、目立つその色を探す。頭ひとつ抜けたところにあるそれは人混みの中にいても容易く見つけることができるのだが、妙なところで律儀なその男はきっとどこか自分が探しやすいよう、目印になるものがあるところにでもいるのだろう。
自転車を始めたばかりの頃、自分よりもずっと前を、後ろなど振り返ることなく突き進むその後ろ姿を死に物狂いで追いかけていたから、それが目に焼き付きすぎて今ではすっかり探すのが得意になってしまった。
(こーゆうの、けっこうハズカシイよなァ…なんつーか、染み込んでる、的な)
荒北は今日も、程なくしてその色を見つけだすと、そんな自分を気恥ずかしいと思いながらもほんのわずか、その特徴的な釣り目を細めた。
公開中の映画のポスターが貼り出されている掲示板の傍らで腕を組み、曲がらないその志のように真直ぐに立って荒北を待つのは、自分の理想に対して一切の甘えや妥協を許さない、けれどどこか甘えたで末っ子気質の、荒北だけの王様だ。
甘痒く歪みそうになる口許を一度ぐっと引き結んでは、逸ってしまいそうになる足を抑えて、荒北はその目映い金色ーーー福富寿一に向かって歩を進めた。
作品名:fukuara summer 作家名:塩焼さばと