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恋の味はどんな味?~出会い編~

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彼女を初めて見た時に思ったのだ。
それはもう、素直に。

なんて、可愛らしい子が入ってきたのだろう、と。


『恋の味はどんな味?〜出会い編〜』


彼…立花早太郎が彼女に初めて出会ったのは、連続した休暇をとった後の出勤日のことだった。
見慣れない子がいるな、そう思っていたら、季節の上生菓子の説明を求められていて、困っていた。

「最後のおすすめは、落とし文です。」

その子は、泣きそうな顔で必死に笑顔を作っていたのだろう。
はっとしたようにこちらを見て、「誰だろう」、と「助かった」という表情をしている。

「君、お会計したことはある?」
「え?いえ…まだですけど」
「じゃあ、5番の箱を使うから、包装紙と紙袋を用意しておいて」
「あ、はい」

まだ何も知らなそうな子を放っておいて、店長はどこへ行ったんだ。

お客様を見送り、一礼。
そうしたら、彼女が話しかけてきた。

「あの、ありがとうございました」

そこで初めて彼女の顔を見る。

その子は、大きな瞳をした可愛い女の子だった。
ふっくらした頬は、触れてみたいくらいやわらかい。
優しそうな雰囲気に、ふと癒されるというのはこういう事だろうかと思う。

「君、新しいひと?」
「はい、一昨日から入りました、梅本杏子です。よろしくお願いします」

ぺこりとお辞儀する彼女は、ふわふわしながら小柄で、可愛い。
なんていうか、触れて、抱きしめたい…
危うく腕が動きだそうなのをぐっと眉間に力を入れて我慢する。

駄目だ、彼女に嫌われるわけにいかない。
そう、仕事上でのことだけでなく、個人的にも嫌われたくないと感じて、いる自分がいる。

そうしたら、何故か目の前の彼女、梅本杏子さんがびくりと怯えたような表情をしていた。
…何か、怖い顔をしてしまったっだろうか。
でも、弁解をするのはおかしい気がして黙り込む。

すると、やっと店長が登場した。

「あら、立花くん」
「店長、休みの間はご迷惑をおかけしました」
「ああ、そんなの気にしなくていいから」

社会人としての挨拶が完了し、梅本さんのことをひとこと言わなくては、と思う.
だけど、声に出すよりも一瞬早く、店長が言う。

「ところで、こちら新しいアルバイトの梅本杏子さん。もしかして、もう挨拶とか、した?」

面白がるような探るような目にむっとしつつ…ええ、まあと答え、反撃に転じる。

「それより、店長こそどうなんです?見たところまだ全部教えていないみたいですけど。」

言外に梅本さんが可哀想だろうという意味を込めながら言うと、店長は不適な笑みを浮かべ…

「梅本さんは期待の新人なんだから、ゆっくりわかてもらえばそれでいいのよ。」

それより…凄みをました笑顔で店長は言う。

「立花くんこそ、ちゃんと教えてあげるのよ。じゃないと…前みたいなことになるわよ」

ぐっと言葉に詰ると、梅本さんが間でどうしたらいいかわからないといったようにおろおろしている。

その後、店長が機転を利かせているのを見て、目を輝かせている梅本さんに少しの苛立ちを覚えつつ、裏の店長の顔を知り、呆然としている彼女に対してフォローを入れる。
裏があるのはお互い様だ。

彼女が退勤し、代わりに桜井さんが入ってきて、にこりと微笑み開口一番ひとこと言った。

「立花さん、梅本さん好みでしょう?」

…好みって。

「いや、可愛いですけどね…」
「だって、店長が気に入ってましたもの。立花さんと店長、好みが似ているんですよね」

悪戯そうな微笑む桜井にくらりと眩暈がする。

「そうよ。立花くん、ちゃんとしなきゃだめよー。可愛いって思うからこそ、ね」

にやりと人が悪そうな笑みを浮かべる椿店長にも言い返せず、ただただ言葉に詰る。
こうして、僕と梅本さんの出会いの一日は終わった。




おまけ



「店長、どう思います?」
「いやー、梅本さんは男性苦手そうだから、立花くんは素の方が攻めやすいんじゃないかと」
「あ、やっぱりそうですよねー」

レジを閉めながらふたりは話す。

「もう、立花さんもわかりやすいですよね。梅本さんに対しては絶対に素の自分を見せないぞ、なーんて、嫌われたくない表れじゃないですか」
「でも、これから楽しみねー」
「はい、お互い楽しい場面は報告で。」

…こんなやり取りがされているのを本人達は知る由もなかった。