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手紙【サンプル】

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あまり向き合う機会も無く見慣れない男、しかし、手に握られている封筒にだけは見覚えがあった。それの正体に思い当たった瞬間、柳生は思わず息を呑む。
その動揺は差し向かう男にも伝わったようで、眼前で、目立つ黒子のある特徴的な口元が満足気に歪んでいくのが見える。
「これ、何だか分かったかの」
「どうして、それを貴方が持っているのです」
昼休みに呼び出された中庭の一角、ここは人通りも少なく、校舎の配置によって巧みに死角になっている。
その青空の下で見せ付けられたのは、柳生が綴った一通の手紙だった。ただし、手にしている人物に宛てたものでは決してない。
「何でここにあるんか、よりも、封が開いちょることを気にしたほうがええよ?」
「……中身を読んだのですか」
「ああ、読んだねぇ」
モラルの欠片もない返事をこともなげに寄越す仁王に、自然と眉根が不快に寄るのがわかる。
「君は、人に宛てた励ましの手紙を読んで楽しいんですか。全く、仕方の無い人だ……見てしまったものはもういいから、とにかくそれを返したまえ」
「ピヨッ」
割り切れなさをため息で押し流し、催促するように少々ぞんざいに掌を差し出すと、仁王は思いの他素直に応じているように見えた。
だが柳生の手が封筒に触れた瞬間、耳に吹き込まれた言葉に心臓を掴まれる。
「励ましねぇ…俺にはラブレターに見えたけど」
二人の手が、封筒を掴んだままの状態で時が止まる。いや、そう感じているのは自分だけかもしれない。
このままでは変に勘繰られると、一呼吸だけ置いて、ゆっくりと視線を手元の封筒から正面に立つ仁王に向けた。眼前のその表情は先ほどから少しも変化せず、薄ら笑いを浮かべているだけだ。
大丈夫、そう自分に言い聞かせて、柳生は張り付いたように硬直した喉奥を叱咤し言葉を搾り出す。
「よく聞こえなかったのですが、何か、仰いましたか」
「お前さん、幸村のこと好きなんじゃの。友情とかと違うて、そーいう意味で」
「な……っ」
あまりにも直接的な言葉をぶつけられて、柳生は目を瞠る。指先に抓んだ封筒に皺が入った。
仮に中身を読んだとして、あれだけで断言出来る訳がないだろう。決定的なことは何一つ綴ってはいないはずだ。なのに――何故この男はこんなにも平然と、ずっと大切に抱えていた柳生の秘密を口にするのか。
反応に困っていると、ふと仁王が小首を傾げ、眼鏡の奥にある目を覗き込む仕種を見せる。
次の瞬間、その瞳が嫌な色を浮かべ、笑いに歪んだ。
――……あっ。
ざぁっ、と全身から血の気が退いて行く音を、耳元で聞いた。片手で思わず口元を押さえ、地に着けた両足がぐらついて一歩後退さる。自分の反応の拙さはわかっていたが堪え切れなかった。
これで完全にバレた。あのたった一瞬で全てを覗き込まれ、見透かされるような瞳が真実を知っているのだと、柳生にまじまじと教えたのが分かった。
作品名:手紙【サンプル】 作家名:みぎり