『貴方』という魂が
無事、ツナがボンゴレ十代目に就任し、リング保持者が守護者になった。
「綱吉君」
「骸?」
骸が本部に立ち寄るなんて珍しい。
ヒバリさんと骸は自由気ままに生活しているからボスになった俺でも行動が把握しきれていない。
「一つ、君に言っておこうかと思いまして」
「何?」
妙に改まったように言うから少し戸惑う。
こんな真剣な顔を見るのはあまり無い。
戦闘や殲滅時はいつも楽しそうだし。
「僕は君の守護者になった」
「そうですね。マフィアを憎んでいる骸さんが守護者になってくれるとは思っていませんでしたよ」
「くふふ・・・僕はマフィアになったつもりはありませんが、そうですね、君じゃなかったら守護者にもなっていないでしょう」
何が言いたいのか。
骸をじっと見詰める。
「君が死んだら僕はボンゴレをも潰しますよ」
「でしょうね」
そんなこと言われなくても分かっている。
「長い間、巡ってきたけれどやはりマフィアは碌でもなかった」
そう噛み締めるように言う。
「ボンゴレには特別な思い入れもあるんですけどね・・・」
「思い入れ・・・」
「僕に譲歩させられるのは今も昔も君だけですから」
遠い日を思い出すように俺を見詰める。
その目に何故か胸を締め付けられる。
「骸・・・・俺は今のお前が好きだよ」
「・・・・・・・綱吉君?」
「よく分からないけど、俺はそう思ったんだ」
骸が口を閉じる。
「・・・・凪や犬、それに千種と居る時の骸はいい顔してる」
「綱吉君はいつもそんなんですよね・・・・」
「そうかな?」
目を閉じて自嘲したように笑う骸はそれでも嬉しそうだった。
「君と居る間は退屈しなくて済みそうですよ」
「逃げるのですか?」
「逃げるよ」
「ボスの役目を放り出して、出来たばかりのボンゴレを捨てるのですか?」
そう言うと『彼』は苦しそうに顔を歪めた。
「大丈夫だよ、アイツは俺より出来るヤツだから」
「そうでしょうね」
肯定すると、『彼』は苦笑した。
「それでも間違いなく、僕と雲、それから虹は離れていくと思いますよ」
「そうかもね・・・」
「それでも逃げると?」
「うん・・・・俺が居るとお前が苦しいだろ?」
『彼』は全てを見透かすかのような透明な目でこちらを見る。
この『彼』の眼が僕をこの場に留まらせていたのに。
「きっと今はいいけど、この先、俺の存在は害にしかならない」
そう言い切る『彼』にはどこまで先が見えているのだろうか。
「・・・・・残念なんだけどね」
「何が、ですか?」
「お前に大事な存在が出来なかったことが」
「それは大きなお世話というものですよ」
そもそも、守護者達を見回してもそんなに大差がないと思うのだが。
「うーん・・・お前は自分でさえどうでもいいと思ってる節が有るから」
「そんなことは無いですよ?」
「そう?それならいいけど・・・・・」
そろそろ行かなきゃ、と『彼』は背を向けた。
付いてくることを拒絶しているのが分かる。
「俺の居場所はきっと死ぬまで分からないと思うから追いかけるなよ?」
「そんなの僕の知ったことじゃないですね」
「・・・・・・・骸」
「たとえ今生で見つからなくてもいつか必ず捕まえますよ」
自分でも狂気染みていると思う。
それでも『彼』はそれに頷いたのだ。
「それもいいかもな・・・・」
「もう・・・・ボスじゃないんでしたね」
「そうだよ・・・・」
彼は一度振り返って笑って見せた。
その笑顔は全てを許すような、慈愛満ちていた。
「いつか、捕まえに来るときには両手に大事なものを抱締めておいで、約束だよ?骸」
「・・・・・・・・ジョット」
「じゃあね」
「また、会いましょう」
そうして『彼』は二度と振り返ることなく、イタリアの地を後にした。
「また、会いましたね」
『約束、守ってくれたんだね・・・・』