請う話
ズボンの裾は跳ねた水で濡れてしまったが、リボーンの用意した値段を知りたくもない程履き心地のいい革靴は、足をしっかりと守ってくれて、ぐしょりともしない。
歩き方すら下手くそだった子供の頃は、雨の日といえば必ず靴下を濡らしていたというのに、大人になるというのは便利なようで、なんだかとてもつまらない。
視線をあげて前を見る。
目の前にどこまでもある空。
足は確かに地面についているはずなのに、上も下もどこまでも、視界じゅう全部青空だ。
まるで空に浮かんでいるような錯覚さえして、時々足を上げてぴしゃりと足元を確認しないとどうにかなってしまうんじゃないかと思う。
俺は空なんて飛べるから慣れているはずなんだけど、ここは違う。
地上の景色を目にして飛ぶようなのではなくて。
ここはもっと遠く、空や雲のもっともっと上の澄んだ場所で。
もしかしたら俺は、気がつかないうちに死んでしまって、ふわふわと空を登っているんじゃないかとすら思えてくる。
頭の芯が痺れてしまいそうな甘い勘違いに、これはいけないと頭をふった。
気づけば俺の足元には雲がふわふわと映っている。
どうやら俺は、足の下に雲を捕まえてしまったようだ。
足元に敷くなんて、なんとまあ恐れ多い。
でもそれを責める人はここにはいないし、もしいたとしても、そんなくだらないことと気にも留めやしないだろう。
それでも今、俺は雲も捕まえている。
おかしくて笑えば、向こう側に映った情けない顔が、少し頬を歪めた。
おい雲雀恭弥。
俺は今、あんたを捕まえているよ。
あろうことか足で踏んづけてしまっているよ。
地球の裏側にいるのか、はたまた宇宙にいるのか。
死んでいるのかすら誰にもわからず何処かへいるあんた。
今すぐここへ走って来て、俺をぶん殴ってよ。