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My Princess KAGUYA

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 夜中に目が覚めた。
もともと眠りは深くは無い方だが、最近は朝まで覚醒することなく就寝できている。
なのに、今夜の私は中途覚醒をしてしまった。
無意識に隣を探って、その理由に行き当たる。

腕の中に収めていた筈の温もりが消えていたのだ。

シーツからは温もりが感じられない。
かなり前にベッドからでた証しだ。

「トイレではない事は確かだな。さて、何処に行ったのやら・・・」

私は重力の支配下ではほとんど役には立たない、出来そこないの能力に意識を込めて探った。


愛しい片翼は、屋敷内のサンルーム付近に居るようだ。

「いくら夏だとは言え、体が冷えてしまうではないか」
私は彼を叱ってやろうとベッドから立ち上がった。


 彼は、感じたとおりにサンルームに佇んでいた。
アムロと呼びかけようとして、私の身体は固まった。


 差し込む月光が、常より煌々としており、彼の身体を青白く照らし出す。
寝る前に交わした愛交が、彼を儚い感じにしている。
ガラス窓に手をあて、けだるげに顔を月に向けているその姿は、人ならざる存在の様で、今にも月光の中に溶けだしてしまいそうに見えた。

そう感じた瞬間に、私の中で月光によって齎された呪縛めいたものがはじけ飛ぶ。
「駄目だっ!」
私は叫ぶなり、彼の許へ駆け寄り、その痩身を腕の中深くに閉じ込めた。
「ぎゃっ! なっ、なにす・・・。いたっ! 痛いよ、シャア!!」
「行かせんよ!」
「はぁ??」
「君を何処へも行かせん!! 君は私の為にだけ、ここに存在してくれているのだ。何処の誰であろうとも、手放しはせん!!」

私は満身の力を込めて彼を抱きこむと、窓から離して月光から庇うようにした。
背後から手加減無しの力で抱きこまれた彼の肺から、息が押し出されてくる。その暖かい空気が腕にあたり、私の恐怖心が少しだけ和らいだ。
「苦しいってば! シャア〜!!」
少しだけ拘束力が緩んだ腕の中で痩身がもぞもぞと動き、身体を反転させると、私を見上げてきた。

とび色の瞳が月光を浴びて琥珀に煌めいている。
何度もむさぼった唇が、ぽってりと膨らんで解けている。

私はたまらなくなって、その唇に噛みつくように口づけると、心の時化が凪ぐまで貪り続けたのだった。





 寝室へ戻り、ベッドに彼を横たえると、私はきつく抱きしめたことによって内出血を起こしてしまった彼の腕を、労りと謝罪を込めて何度も擦った。
「ばっかだなぁ、貴方」
「馬鹿で結構! 君に関する事になると、私は途端に馬鹿者になるとアルテイシアにも常々言われているのでな」
「だからって、これはないんじゃない?」
「・・・・・・」
「ほんと、しょうがない奴」

彼はため息をひとつ零すと、おもむろに私の両頬をつまんで左右に引っ張った。
「アミュリョ??」
「俺は何処にも行かないよ。あなたと一緒に生きてくって約束して、一緒に暮らしてんだろ? その俺を疑うってか?!」

むにむにと頬を引っ張られ、私はここに至ってようやっと彼の逆鱗に触れてしまった事に気づいた。
弁明しようにも、彼の手は私の頬を加減なく引っ張る事に集中している為、明瞭な言葉を発する事が出来ない。
私は擦っていた両手を彼の手を覆うように持ち直し、小さく首を左右へ振った。そして、彼の瞳を真摯に見つめた。


“君を疑う気持ちなど、微塵も無い。ただ、君が月に攫われそうに思えて・・・”
想いを手を通じて伝えようと意識すると、彼には明確に伝わったらしく、引っ張る力が解けて、そっと慰撫する様に撫でられる。

「どれだけの力が働こうとも、俺は、貴方と、この先の人生を共に生きていく。こんな面倒な男と一緒にいられるのは、俺位なものだろ?」
そう断言され、私はあっけにとられたのちに、腹の底から笑いが込み上げてきた。

「そうとも! 私と共に歩めるのは、君をおいて他にはいない。ありがとう、アムロ。私を選んでくれて。未来永劫、君と共にあり、君に尽くすと、ここに約束する」

私は熱くなる目蓋を無視して彼の両手を握りこむと、その左右の甲に口づけを落とした。



 私を彼から引き離そうとした青白い月の光は、今は重なる私達を照らし、誓いの証人となった。
2014.08.10
作品名:My Princess KAGUYA 作家名:まお