きつねのしっぽ
くるみ幼稚園前。エアカーを停めて、助手席のロックを下ろそうとしたら、何か様子がおかしい。
「ママ…」
「あらら、どうしたの?」
見ると顔は真っ赤で、目はぼんやり霞んでいる。
急な発熱はよくあることだったので、彼女は幼稚園の受付に「ロック・マクミランですが。今日は休みます」と簡単に告げ、家へとUターンした。
ベッドに氷枕を用意して、ロックを横たえる頃には、熱はピークに達していた。
このごろ、彼はよく熱を出す。医者に連れて行くころにはもうケロッとしていたりするので、今回も慌てず様子を見ることにした。
先日の夜も熱のせいか、ひどくうなされていた。うわ言で知らない子の名前を叫んだり、声を出さずに涙を流したりする姿は彼女を不安にさせたが、朝目が覚めれば何事もなかったかのように、あの天使のような笑顔を見せてくれるのだ。
幼稚園で、何かあったのかしら。
こんど聞いてみよう、と思いながら、彼女は着替えをとって来ようと立ち上がり、ドアの前で寝息を確かめようともう一度振り返った。
「えっ…?!」
ロックに意識のある様子はない。しかし身体全体が淡く不思議な光に包まれているようだ。そして…。
私どうかしたのかしら。なんだかロックに…しっぽが生えてるように見えるんだけど?!
思わず自分の額に手をやる。熱はないようだけれど。
「ど…どういうこと」
思わず駆け寄り、しっぽの正体を確かめようと手を伸ばしたとき、ロックが身じろぎした。
「まってよ!キツネさん!!」
叫んだ自分の声で目を覚ます。きょろきょろとあたりを見回し、母親の姿を見つけてきょとんとしている。だんだんと目の焦点が合ってきて、彼は恥ずかしそうに下を向いた。もうさっきの光はどこにも見えない。
「ロック、あ、あのね、今……」
「どうしたの?ママ」
「…………。いえ、何でもないわ。まあ、あなた汗びっしょりじゃない!まってて、今着替えをとってくるわね」
慌てて駆け出す彼女の後ろで、ロックがペロリと舌を出した。
おわり