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無題

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無題



夜はまだ深い。

安宿のベッドで、男はふと眼を覚ました。隣に横たわった女の寝顔を見やる。眼は閉じているが寝息は聞こえない。

この女…、名前はなんと言ったっけ。きのうは確かに名乗っていたはずだが。

昨夜はとことん一人で飲むつもりで、普段あまり行かない店のカウンターに陣取っていた。女がいつ現れて、何を話したのか、男は思い出そうとするが、何故か記憶は断片的で、一向に今目の前にある状況に結びつかない。
ただ、女の瞳の色だけはやけに印象に残っている。模造品の宝石のような、美しく人工的な光。

…うーん、思い出せないな。
まあいいか、どうでも。
男は煙草に手を伸ばし、ふと昼間買った新しいカプセルがあることを思い出した。上着をたぐり寄せ、ポケットを探る。

と、
いつの間にか、白く細い手に手首を掴まれていた。驚いて顔を上げると、女がじっとこちらを見つめている。
昨夜見たままの、光を乱反射する双眸の奥から覗く、深く濃い瞳の色に、男はたじろいだ。
「それはだめよ。いちど使えば、戻れなくなるわ」

うるせえな。
言い返そうとして手を振り払い、男は立ち上がった。女が怯むような手近な言葉を探ってみるものの、結局、男の口から漏れたのは、「…ああ」という間抜けな一言だった。

女はするりとベッドから下り、無造作に散らばったままの服を拾い上げた。慣れた手つきで身に付けると、立ちすくんだままの男の手からカプセルを取り上げ、自分の口に放り込んだ。

「ごちそうさま」
口元だけでくすっと笑うと、女はドアを開けてすっと部屋を後にした。
その一瞬の横顔が、男の瞼にいつまでも焼き付いていた。
作品名:無題 作家名:こゆき