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call a spade a spade

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 柳の話じゃ海軍は砲術なんかの攻撃関係の兵科を重視し、通信には力をいれていなかったという。じゃあ、海大甲種卒のエリート将校なら、もっと花形の科になれるもんじゃないのか?

 ある時、その疑問を直接尋ねてみた。




―― call a spade a spade ――




「聞こえますか、聞こえますか」
「なんだ、それは?」
 これはな、とどこかを思い出すような瞳で返す。
「ラジオの試験放送で流れた第一声なんだ。あれは、私が十五の時だった」

 生まれた時からラジオもテレビもあった俺たちには想像もつかない時代の話だ。
「その、試験放送がどうした?」
「言葉は、こうして発したそばから消えてゆく。だが、その内容は私の中にも、あなたの中にも残っているので消すことは出来ない。あの日、私の耳に届いたラジオの第一声を今でも思い出すことが出来るように」

 なんと言えばいいのかな。観念的な話で申し訳ないのだが……情報には、言葉には、力がある。だが、行動で示さない限り、言葉は真実とは言えない。
 通信将校は言葉を扱い、それを行動とすることが出来る。

 ペンは剣よりも強い。その通りだと私は思っている。

 大艦巨砲主義、精神論。日露戦争での勝利への固執。おそらくそれだけでは今大戦、日本に将来はない、そう考えていた私はそれ以外の道、すなわち情報を武器とすることができたら、と思ったのだ。言葉は強い、私はそう信じている。

「本当に観念的で…。もっときちんと表せればいいのだが」

 そうまるで夢を語るように話し、はにかむ姿はまだ少年のようにあどけなかった。



「角松二佐、私の声が聞こえるだろうか」

 どうして。どうして気付けなかったんだ。

「聞こえていたら返事をしてほしい」

 あの男は嘘などついたことはなかったのに。言葉の力を、怖さを知っているあの男は何かを欺くために言葉を使ってなどなかったのに。
 俺は、真実を見てはいなかったのか。

「……ッ…くそっ!!」


 ―――聞こえますか、聞こえますか―――

 そう俺に言ったときと同じ声じゃねぇかッ……。
作品名:call a spade a spade 作家名:東雲