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 焦がれるほどのこの想いをなんと呼ぼう。




―― Names and natures do often agree ――




 日本海軍最速を記録した峯風型駆逐艦「島風」
 私はずっとこの艦が好きだった。
 
 名は冠するものの本質までを表す。名とは最初の呪だからだ。それは艦とて例外ではない。
 帝国海軍の艦艇はみな、一様に美しい名を持っている。否、帝国海軍の、ではない。かつて、侍の時代を終わらせた函館戦争においても「高雄」「回天」などの艦があった。日本人は愚かなほどに詩的なものを求めるのだ。
 そして私もまた、美しい名前をもつ艦に惹かれている。

 島風―――――その名の意味は「島から吹く風」もしくは「島で吹く風」
 目には見えぬ風の如くかの艦は駆ける。誰も追いつけないほどの速さで。40.7ノットという記録は未だ破られない。

 だが、沈んだ。

 カビエン沖で米潜の雷撃を受け、沈没したと聞いた。その速さも敗北という事実の前からは逃れることは出来なかった。それだけだ。
 ただ、それだけ。私は、冷静だ。

 軍艦なのだ。どんなに美しくあろうと。軍艦だからこそ美しかったのだ。戦場にあってこそ輝くものだったのだ。
 その速さに、その戦うものの持つ輝きに何より魅せられていた。憧れにも似た想いで。
 だから、悲しみなど感じはしない。そんなことを感じるのは在るべき場所で使命を帯びて消え行くものに対する愚弄だ。乗艦していた者への思いも持ち合わせない。私はそうあると決めた。この戦いのただ中で余計な物思いを持つ余裕はない。

 私は、冷静だ。



 現在、私、立石良則は「島風」艦長である。丙型駆逐艦「島風」の。
 試作であるこの艦に同型艦はない。私の艦だ。
 かの艦と同じく、速さを求められる高速駆逐艦。同じ名前を冠することでその呪に縛られている。
 もっと速く、もっと強くあれ。そんな当然のことをまるで祈るかのように名付けた上層部の意思。お偉方も結局は名前などという目に見えぬ力に頼っているのだ。

「ふ……ははっ」

 思わず笑いがもれる。おかしすぎて涙が出る。
「ははっ…しまかぜ…私の…艦だ…」
 なんと因果なことか。焦がれたあの艦が沈むことがなければ、私は「島風」艦長となることはなかった。



 焦がれるほどのこの想いをなんと呼ぼう。
作品名: 作家名:東雲