太陽系
『水、金、地、火、木、土、天、海、冥・・・冥、海?』
テラスから少し鼻にかかったような優しい声が、私の変わらない言葉で何かを言っている。
私達が雌雄を決してから、既に一年半。
地球連邦にもネオ・ジオンにも秘密裏に、こうして二人で過ごすようになって一年。
アルテイシアには随分と世話になっているが、その分を彼女の企業のブレーンとして働いている私と、街の便利屋として引く手数多なアムロは、それなりの収入を得ている。
一つの街にあまり長居は出来ないが、それでも、このニホンに来て既に半年になっていた。
四季の移り変わりが旧時代に比べるとはっきりとはしなくなったとはいえ、今の時期は「秋」と言う季節に相当するらしい。
月を愛でたり、秋の味覚を差し入れして貰ったりと、まったりと過ごしている。
今夜はほとんど月の姿を望めない夜だが、その代わりに星が降るように見渡せる。
夜風を楽しもうぜと誘われ、私達は夕食をテラスで摂るようにした。
テーブルの上には軽くつまめる物を乗せた皿が幾つか
傍らには、金色の泡をグラスの内側で弾けさせている甘口のシャンパン
季節外れのイチゴをアルテイシアから送って貰ったのを思い出し、キッチンへ取りに行って戻ると、彼が何事かを呟いているのだ。
「アムロ? 何が疑問なんだね?」
彼の語尾が疑問形に跳ね上がっていたことから、何か不思議に思っているか疑問を口にしているのだと感じた私は、シャンパングラスに冷凍にしておいたイチゴを一粒入れながら訊ねた。
「ああ。太陽系の惑星の並び?」
「はぁ?Mercury、Venus、Earth、Mars、Jupiter、 Saturn、Uranus、Neptuneだろう?」
「じゃあ、『海・冥』で良いんだ」
「カイ・メイとは?」
「日本語での惑星の並びを覚える方法。冒頭の文字だけ出して覚えるんだ。って、今のシャアの言い方だと、冥王星が無いんだけど・・・」
「君の言うメイオウセイと言うのは、順番的に言うとPlutoと言う事かな? 西暦2006年に、Plutoは準惑星の扱いになり、外されたんだよ」
「へぇ〜。同じ太陽を廻る星なのにナァ」
「で? 何故、今、そんな事を考え出したのかね。もしや、宙に帰りたい・・・と、思いだしたのか?!」
もし彼が宙に帰りたいと言い出したりしたら、私は彼を何処にも行けないようにしてしまうだろう。
諦めていた存在をこの手に出来た瞬間から、私の独占欲は己でも度し難い物に成長している自覚がある。
それ程に彼が必要で不可欠な存在になってしまっているのだ。
「ああ〜? 違うって。太陽系って、俺達の関係に似てるなぁって、ふと思っただけだよ」
「私たちの関係?」
「そっ! シャアって言う強烈な輝きを持つ太陽の周りに、その存在に惹きつけられた星が、離れられなくなって一緒に回ってる・・・て感じがしたんだ。その最大がネオ・ジオンだろ?」
「・・・言わせてもらうなら、君こそが太陽だと思うがね」
「俺は流星だろ?」
「君は一瞬で消える儚いスターダストなどでは無い。君と言う存在と共にありたいと願い、その為にどうすればいいかと考えた結果、私はネオ・ジオンを起こしたようなものだからな」
罪作りなSoleilだ
私はそう言うと、フルートグラスの中身を唇越しに彼の喉へと流し込んだ。
そして、そのまま
唇を放さずに痩身を抱き上げると、寝室へと足を進めたのだった。
2014.09.29