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いつき りゅう
いつき りゅう
novelistID. 4366
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鳥と卵の因果律

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         * 鳥と卵の因果律 *


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メシヤ、何故あの男を側に置くのです?
あの男がすでにヤモリビトでないことは、貴方ならばとうに御存じなのでしょう?

どうやったのかは知りませんが、奴はヤモリビトの霊魂を消し、
未だその身も魂も人間のままでいる。
すでに十二使徒の資格を失っているじゃありませんか。

それなのに、何故正体を追及することもなく、貴方をメシヤだと信じようともしないあやつを貴方の側に置かれるのですか?


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蛙男、お前には解らないか?
何故、奴が僕の十二使徒なのか。

彼は人間でなくてはならない。

正義感と責任感を持ち合わせているくせに、愚かな程に小心者で、利己的で矮小な奴は己の保身に走るのはためらわない。
生に執着するくせに、己の人生の先を夢想しては恐怖する。
へし折られたプライドすら後生大事に掻き抱き、僕らにへつらいながらも、本当の自分は違うとなけ無しの自尊心に追いすがる。
僕を憎みながらも、徹夜は控えろ食事は取れと僕の体調を気遣う台詞を吐く。

なんて矛盾に満ち溢れた生き物だろう。
渦潮の様に、相反する諸々の雑多な感情全てをその身に抱き、練り込み混ぜ合わせる。

人間の抱く感情全てを宿すあいつはまさに、人間そのもの。

十二使徒の資格を失ったと言うが、あいつの役目とお前の役目は違うんだよ、蛙男。
あいつは決してお前のように純粋には生きられない。
臆病者だからこそ、未知の領域に足を踏み入れることを躊躇し、
自分の基盤であった、これまで生きて来て築き上げた常識や、
人間であることその事に拘り、それを捨て切れない。
人の世の常識と先入観で凝り固まった頭では、僕らの執り行う神秘の業を受け入れる事が出来ずに、あくまで自分の理解出来る範囲で認識しようとする。

あいつは僕が救世主だなんて信じていないと言っていたな?

僕の忠実なる信望者のお前はメシヤの僕を見てそれが当然だと思っているが、
奴は救世主の僕じゃなく、人間である『松下一郎』を見ているんだ。

メシヤの僕に恐れおののきながら、縋るように僕の人間の部分を探して安堵しようとする。
愛するべきか、憎むべきか、葛藤し続ける様はシェイクスピアの戯曲のよう。

人間だから使徒になる資格がないというのは違うよ。
彼は人間で無くてはならぬ。
万人が皆平等に幸福に暮らせる世界、「千年王国」を作り上げるのが僕の使命。
その僕の手助けをする十二使徒が、人間だからと差別するなど、そんな道理に合わぬ事言うもんじゃない。


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…それに、奴には本人も預り知らぬ役割が与えられている。
精神異能児としてこの世に産み落とされた異形の子。
「神が殺し損ねた子」と呼ばれた僕。

誰も思い至らない。

「殺し損ねた」のではなく、僕は「この世に早く生まれ過ぎた」のだと。
本来の計画では「千年王国」建設はもっと後に行われるはずだった。
なのに早く産まれてしまった僕は、このままではその時が来ても
年老いて魔力も衰えた身で着手しなくてはならず、より困難な道程となるのは間違いない。


だから、僕は死なねばならぬ。

一度死に、時を経てからまた蘇り、心身共に万全の状態で「千年王国」建設へと臨むべく。


僕は死なねばならぬ。


そして、その幕引の役目を与えられたのが、佐藤。あの男だ。
お前達には決して出来ぬ役割を。
キリストを裏切った、イスカリオテのユダの役割を演じるべく選ばれ、舞台に上げられた役者。

ヤモリビトを宿させる為に一度僕に殺された男が、今度は僕を殺す。

巡る因縁の輪の中で、そして奴は知る。
死んだ僕が築こうとしていた物の尊さを。
僕が居なくなった後の世界がどれだけ救いがないものかを。

残された世界、奴に突きつけられた現実が醜く残酷であればなおのこと。
どれだけ自分が取り換えしのつかない事をしたのかを、その責任感の強さゆえに常に自問しては苛まれ、逃れることも出来なくなる。
自分の常識に沿って、僕を殺してしまえば世の中は荒れずにすむと、
そう信じてやったその事が世界を混乱に導いたと。
奴の正義感の強さはそのまま罪悪感へと掏り変わり、奴を苦しめるのだろう。
僕を裏切ったと後ろめたさを抱えながらも。
これは正義だったのだと正当化したくとも。
僕を殺した後の現状への罪悪感と後悔が、奴の拠り所であったはずの、人としての常識と限界を突き崩す。

世界が崩壊する音を聞きながら、あいつの中で正義が罪へと変わる時、己の罪を悔いるだろう。
もう一度やり直せたならばと切望させるだろう。


そして、その葛藤の果てに僕は復活を果たす。
贖罪の奇跡を授けられたあの男が裏切る事は決してない。

利己的な彼は、僕を失った後の己の苦しみを忌避しようと、二度と僕を失わぬように死力を尽くすだろう。
瓦解した正義の代わりの指針をと、彼は絶対者たる僕を求め、
他の誰よりも忠実な使徒であろうとするだろう。
救世主の、メシヤの使徒として。

善良なるユダは、裏切ったからこそ誰よりも忠実なる使徒となる。

死によって止められていた時が復活と共に動きだし、成熟した身体と強大な魔力を備えた僕は、忠実なる十二使徒と共に「千年王国」建設の為の時を迎えるのだ。


…あぁ、不思議な事だ。
まるで奴を従順な使徒にする為に、時早くして産まれたみたいじゃないか。

早く産まれてしまった僕を殺す為に選ばれた使徒なのか。
彼を真の使徒とする為に僕が早く産まれたのか。

卵が先か、鶏が先か。
人間であった彼を殺した僕は、人間の彼に殺される。

死と裏切りを僕らの通過儀礼として、僕らは互いに真の『使徒』と『メシヤ』へと生まれ変わる。


麻の様に複雑に絡まり合った全ての要因を解きほぐそうとしても、閉じた回路はメビウスの輪。
答えの出ない堂々巡りが導き出す結論は常に全てが『必然』であったのだと語るのみ。


求めたのか、求められたのか。
彼は僕の側にいなくてはならぬ。





ー 彼は『人』でなくてはならぬのだ。 ー



作品名:鳥と卵の因果律 作家名:いつき りゅう