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こんちくしょうめ

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久しぶりに日本の、フィールドの外で翼と会えるってことで、南葛の連中だけに限らず、全日本の仲間達も二次会まで顔を出した。
 会計や当日までの準備はほとんど西本にやってもらったけど、幹事を任された身としては、まずまずの出来だったと思う。
 24時間営業の店がないわけでもないから三次会までやっても良かったけど、さすがに疲れたから、俺からはあえて言い出さなかった。そしたら誰が言い出すわけでもなく解散の流れとなり、実家に戻る奴、タクシーでホテルに向かう奴と、それぞれ散り始めたのが午後9時くらい。
 俺は当然、西本を送ろうとしたら、何故か隣に次藤と佐野がいた。
「西本、帰るんだろ? 送ってやるよ」
 奴らに気づかないフリをして、声をかける。
「あ、石崎くん、ありがとう。でも、今日は洋くん達と帰るから大丈夫」
 ……。
 洋くん? 一緒に帰る??
 …………。
「ちょっと待てえ! 何で、お前が西本と帰るんだよ!?」
「だって、洋くん、私の従兄弟だもん」
 背伸びして次藤の胸ぐらに掴みかかった俺に、西本が間髪入れず答えた。
「……従兄弟?」
「うん。あれ? 言ってなかったっけ?」
「聞いてねーよ。っていうか、従兄弟だからって一緒に帰るこたぁないだろ」
 少しムッとしながら答える。
「何言ってるタイ。今日はゆかりの家に世話になる予定タイ」
 次藤の野郎が、ニヤニヤしながら言ってきやがった。横で佐野のチビが「俺もお世話になります」とか付け足してきた。
「いやいやいや、おかしいだろ! 何っっでわざわざ彼氏のいる女の家にお前らが泊まるんだよ!」
「いいじゃない、別に。父さんと母さんも久しぶりに洋くんと会いたいって言うし」
 西本、何がおかしいのか本気でわからない顔をしてやがる。俺はバリバリと頭を掻いた。
「だあっ! まずその『洋くん』ってのをやめろ! それから、お前送って、こいつらはうちに泊めるから、おじさんとおばさんにはそう言っとけ!」
「次藤さん、石崎さん、焼きもち焼いてますよ」
 佐野がケケッと笑いながら、次藤に耳打ちする。次藤は退屈そうに耳をほじりながら、
「ゆかりが焼きもちなんか焼かれるタマかタイ。女はやっぱりしとやかでボンキュッボンが一番タイ」
 次藤は言い終わらないうちに、俺より先に西本に頭を叩かれていた。
「悪かったわね!」
 ていうか、次藤もその『ゆかり』ってのやめやがれ。ムカつく。
「何でもいいから行くぞ、ほら。あ、お前らは駅前のファミレスででも待ってろ。後で電話するから」
 2人に店の場所を教えてから、西本の肩を叩いて促した。
「え? あ、うん……でも」
「おじさんとおばさんには俺からは話すから。行こうぜ」
 まだ何か言っている2人を置き去りに、戸惑う西本を連れてタクシー乗り場に向かった。
 タクシーで隣合わせに座ると、西本が少し照れたようにこっそりと聞いてきた。
「ね、さっきの、焼きもちって本当?」
「……まあな。自分の彼女が他の男と名前で呼び合っているのを見て、平気な奴はいないだろ」
 車窓から外を眺めながら、わざとぶっきらぼうに答えると、横からフフッと笑い声がした。チラッと横目で見ると、西本が両頬に手を当てて、嬉しそうに表情を崩していた。
「でも、洋くんは洋くんだからなぁ」
 そりゃ、俺より前からの付き合いだもんな。当たり前っちゃ当たり前だ。わかっちゃいるけど、割りきれるものでもない。
「!!」
 そこで、俺は嫌な現実に気がついた。
 こいつと結婚したら、次藤は俺とも親戚になるんじゃねーか。チームメイトとしては頼もしいし良い奴だが、ただのチームメイトだった奴が親戚で、しかも人のことは言えないが見た目がアレでポジション同じとか、何の冗談だよ。
「勘弁してくれよ……」
「? 何が?」
「いや、こっちの話」
 キョトンとする西本に言葉を伏せ、停車したタクシーに少し待ってもらえるよう告げて降りた。
 西本の親父さんとおふくろさんに事情を話したら、笑いながらもすんなりわかってくれた。明日、あいつらを連れて来る約束をして、タクシーで駅方面に戻ると、少し離れた場所にあるファミレスの前で降りた。
「待たせたな!」
 店に入り、2人を見つけて近寄ると、二次会でしこたま料理を食べてのこの時間だというのに、次藤がステーキを食べていた。
「遅いタイ。腹減ったから、飯を頼んじまったタイ」
「もちろん、奢ってくれるんですよね?」
 パンケーキを切りながら、佐野が悪そうな笑顔で言ってきた。
「何で俺がお前らに奢らなきゃいけないんだよ」
「何言ってるタイ。人から親戚との団欒を奪っておいてよく言うタイ」
「あ、それな、明日お前らを西本の家に連れてくことであっちの親父さんとおふくろさんにも了解されたから。ていうか、そもそも佐野は関係ねーだろ」
 ドリンクバーを頼みながら素っ気なく答えてやる。
「だって、俺はゆかりさんの親御さんから正式に招待されてたんですよー」
 口を尖らせて佐野が反論する。
「知るか。血縁でもないくせに彼氏のいる女の家に泊まろうってのがおこがましいんだよ。今からホテル取れと言われないだけありがたく思え」
「うわー。石崎さんってそういう人なんだー。ゆかりさん、めちゃくちゃ束縛されてそう」
 かわいそー、などと付け加えながら言うもんだから、ムカついてストローの先でカルピスを飛ばしてやる。
「それにしても、石崎はゆかりの何処が良かったタイか?」
 ひでーなぁ、と一人ごちる佐野を横目に、次藤が聞いてきた。
「何処って……そんなもん、一言じゃいえねーよ」
 急に恥ずかしくなって、言葉を濁した。
「ゆかりは昔からしっかりしていて気が強いタイなぁ、お前には向いてるっちゃ向いてるかもタイ」
「そ、そうか……?」
 デヘヘと笑って答えると、佐野がおぞましいものでも見る目つきをしやがったから、今度はピンポイントで目にカルピスを弾き飛ばしてやった。
「ところで次藤、その、何だ、昔の西本の話とか、何かないのかよ」
 照れくささをごまかすように、ゴホンと咳きこみながら聞くと、次藤はステーキの最後の一切れを口に放りこんで、俺を見てニヤッと笑った。
「あー、今日は金も使ったし、色々予定が変わったから財布がきつかタイねー」
 爪楊枝で歯の隙間をシーシーとしながら、何気なく言ってきやがった。
 俺はクソッと思いつつ苦笑を浮かべる。
「あー、わかった、わかったよ! ここは俺の奢りだ。わかったらさっさと出て、俺ん家に行こうぜ」
 比良戸コンビはよっしゃとばかりに顔を見合わせた。
 この後、家に着いて風呂を浴びて、俺の部屋に入るなり体を横たえてイビキをかき始めた次藤に覚えた殺意を佐野に宥められつつ、なかなか寝つけない夜を過ごすことになるとは、この時の俺は夢にも思っていなかった。
 ステーキ代返せ、こんちくしょうめ。

【終わり】
作品名:こんちくしょうめ 作家名:坂本 晶