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はろ☆どき
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空と海の間に ~don`t forget 3 Oct.~

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 静かに夜が深まり、日付が変わるまであと十分足らずだった。
 居間のソファーに腰掛け読書をしていたロイは、ウイスキーをもう一杯グラスに足してくるべきか思案した。どうせ今夜は一人きりなのだ。だから夜更かしして、今読んでいる本を読みきってしまうつもりだった。それにはまだ少し時間がかかるだろう。だがコーヒーで眠気を飛ばすよりも、アルコールで頭をリラックスさせたい気分だった。
「やはりもう一杯飲むか」
 と、その時外からざりざりと砂利を踏む音が聞こえてきた。こんな時間に誰が、と一瞬構える。しかしそれがよく知る足音と気配だと分かり、ロイは浮かしかけた腰を再びソファーへと沈めた。その人物なら鍵を開けてやる必要がないからだ。
 やがてガチャリと扉が開き、どさどさっと玄関に荷物を置く音がする。それからぱたぱたとリビングに急ぎ足で入ってきたのは、予想通りこの家の同居人であるエドワード・エルリックだった。
「うはー、ぎりぎり間に合った?」
「やはり君か、エドワード。どうしたんだね。今日はリゼンブールに泊まるはずだったろう。まさか、兄弟喧嘩でもしたのかね?」



 エドワードは今日、故郷であるリゼンブールへ帰っていたのだ。アルフォンスが自分の家を建てた完成を祝うために。
 積もる話もあるだろうしゆっくりしておいでと、今朝早くに送り出した。彼も一泊で帰るよと言っていたが、つまり今日は泊まってくるつもりだったはずだ。
「喧嘩なんかしてねーよ。なんか、その、どうしても今日のうちにここに戻りたくなってさ」
 エドワードが壁の時計を気にしながら、少々顔を赤らめながら言った。そんな風に言われたら、ロイとしても尋ねない訳にはいかない。
「何故、どうしても今日のうちにと思ったのか、理由を聞いても?」
「……やっぱ、それ聞くのかよ」
 エドワードはロイから目を剃らしながら言う。
「それはそうだろう。だって私に関わることなんだろう?」
 ここに、というからには私のいるこの家にということだろう。久しぶりの身内との再会だったのに、何故今日のうちに、と思ったのか気にならないはずがない。
「うん、まあ……。えーとな、アルがオレ達の家のあった跡に自分ち建てたじゃん?」
「ああ、そう聞いているよ。私も近いうちに訪ねたいな。以前二人で行った時はまだ更地だったしね」
「あんたの休みが取れるものなら、何時でも連れてってやるさ」
「それが一番問題だな。それで?」
 エドワードがにやにやしながら話を脱線させようとするので、戻すように先を促す。
「うん……。オレ達は帰る場所を無くして、振り返らず前に進むために家を焼いた。今日はその旅の始まりの日なんだ」
 今日は十月三日。エドワード達が戻る場所を無くし退路を断つために、彼等の家を焼いた日なのだという。その決意を忘れぬよう、エドワードは与えられた銀時計の内側にその日付を刻み蓋を封じていたのだと、銀時計を返却した時に聞かされた。
「けどアルにとっては、今日から帰るところが出来た日になるんだなって話になって。それで、オレの帰るところってどこなのかなって考えたら、やっぱりここかなと思って。そしたら、その、どうしても帰りたくなっちゃって……」
 エドワードは一度口を噤み、目をそわそわと泳がせながら顔を上げぬまま再び口を開いた。
「あ、あんたとこうなる人生を歩む、始まりの日でもあるわけだから……とか……」
 愛おしいとか慈しむとかいう気持ちは、今の自分の心境ようなことをいうのだろう。正に言葉では言い尽くせない、しかし溢れそうな気持ちが身体中を満たすのが分かる。
 もしも彼に「あんたの帰る場所は?」と聞かれたら、迷わず「君のところだ」と答えるだろう。この気持ちを今すぐ伝えたい。けれど言ってしまうのが勿体ないような、言い表せないのがもどかしいような、焦れったさをどう表現していいか分からなくて。
 行動で示してみることにした。抱き寄せる腕の力を強めてエドワードの身体をさらに引き寄せ、見上げてきた額に一つ、唇に一つのキスを。そして。
「おかえり、エドワード」
 家族にする当たり前の挨拶を一つ。
「ただいま、ロイ」
 そうしたら、今度はエドワードの方からキスをくれた。
 その時、ちょうど時計の針が十二時を差して日付が変わったが、二人はそれに気づくこともなく、互いの想いを伝え合うことに没頭していった。



 ある静かな秋の夜のこと。
 彼らにとっての記念日が、また一つ増えた夜だった。



Happyending₋life❤Roy*Edward petit₋only.