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無未河 大智/TTjr
無未河 大智/TTjr
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鎧武外伝 仮面ライダー神武

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序章



 逃げる。
 逃げる。
 青年は逃げる。
 夜、暗闇の中を逃げる。
 拳銃で武装した者達から逃げる。
 その青年の肩には銃創の後。貫通しているため弾はないが、出血の量が夥しい。
―やるしかない。
 青年は心の中でそう思い、あるものを取り出す。それは手の平サイズの、錠前状の物だった。彼はそれを解錠し、目の前へ投げ捨てる。すると錠前だった物は変形を開始し、ホバーバイク状の物になった。
 青年はそれに跨がり、発進させる。
 なおも止まない銃撃。
 青年は振り向かない。
 どうやら銃弾の速さよりもバイクは速いらしく、銃弾を寄せ付けずに進む。
 そしてある一定の速度を越えた時、バイクの目の前の空間に裂け目が現れた。その空間の裂け目からは、たんぽぽの花びらのような物が舞い散っている。
 青年はそこへ迷わず突っ込む。
 青年がそれを通り抜けると、裂け目は閉じ、その空間は元から何もなかったかのように静かだった。
「こちらチームブラボー、標的を見失いました。」
 追っ手の一人が通信機で連絡をとる。
『おそらくロックビークルでヘルヘイムへ逃げたのだろう。今回は撤退しろ。』
「了解。」
 通信を切ると、追っ手達はもと来た道を引き返す。
 その場に残っていたのは、青年の流した血の痕のみであった。



「いてて…。」
 周りを大きな木とそこになる木の実で囲まれた森。
 そこに先ほどの青年はいた。
 一本の木の幹に背を預けて腰掛け、左肩の銃創の止血を試みていた。
「まったく、無茶しやがる。」
 そこへ一人の男が声をかける。その男は、何処ともわからぬ民族衣装のようなものを纏い、口元を隠している。
「…サガラ、こっちへ来ていたのか。」
「ああ。ちょっと用事でな。」
「…俺を追って来たのか?」
「いやぁ、貴虎からはお前の様子を見てこいと言われただけだ。あんな事言っておいて、死んでいないか気にしているようだったぜ。」
「いくらなんでもガチで撃たなくても…。」
「お前が俺達と繋がりがあることを匂わせるなって言ったんだろう?」
「そうだが。」
 青年はあるものを取り出し、腰に装着する。それは中央に六角形の凹みがあり、向かって左側に小刀のような物がついている代物だった。
 戦極ドライバー。それがその物体の名だった。
 刹那、装着されたそれの、何もなかった部分―ライダーインジゲータという―に仮面のような絵が浮き出た。
 青年はその辺になっている果実を適当にもぎ取る。するとそれは先ほどホバーバイクに変形した錠前に似た物に変化した。それには、L.S.-00と書かれており、心なしかヒマワリの種のようにも見えた。
 その名を、ロックシードという。
 青年はそれを解錠し、腰のベルトに装着する。そして錠を閉める。
「これで、飢えは凌げるな。」
「それを持ってきていたのか。なるほど、戦極凌馬も慌てるわけだ。」
「ああ。これは八機目だ。ビートライダーズに配られるはずだった、な。」
 プロジェクト・アーク。二人は、その内容を全て知っていた。
 当たり前だ。青年は、元プロジェクトの参加研究員なのだから。
「知記、流石に傷を何とかしたほうがいいぞ。」
「だが治療する手だてがない。どうしろというんだ。」
 知記―紅城 知記(あかぎ ともき)という―と呼ばれた青年は、彼がサガラと呼んだ男に言う。
 それを聞いたサガラは、何も言わずに手を前に出す。すると知記の肩口の流血が治まり、元から流れていた血液のみが残った。
「…なんなんだよ、お前。」
「それは、聞かない約束だ。」
 理不尽、とでも言いたげな顔をした知記は、呆れた顔を作り血で濡れた左手で果実を掴む。すると果実はまたも錠前に変化した。その錠前はオレンジ色の物に変化した。しかしそれは一瞬であり、すぐに紅い錠前に変化した。
「…これは。」
「どうやら、イレギュラーが発生したようだな。」
 知記は錠前をにぎりしめる。
 これが、彼の物語の始まりの合図であった。