For the future !
二年目四月 日本選手権水泳競技会前
呼び鈴が鳴って、遙は玄関に向かう。
ドアを開けて、向こう側に立っていたのは、予想通り、凛だ。
前回やってきたときよりも荷物が多い。
凛がドアを閉めているあいだに、遙はさっさと居間へと向かった。
少しして、凛が追いついてきた。
「ハル、これ読んだぞ」
遙は凛のほうを向いた。
凛が差し出してきたのは新聞だ。
スポーツ欄が見える。
そこには、日本選手権水泳競技会直前の注目選手へのインタビューが掲載されている。
そのインタビュー対象者は、遙である。
昨年九月の日本学生選手権水泳競技大会での男子フリー100メートルで遙は優勝し、しかもそのタイムが派遣標準基準?を突破したので、注目選手として扱われるようになった。
凛は言う。
「なに勝手にハードルあげてんだよ」
インタビューに対して遙は答えた、松岡凛に勝ちたいと思っています、と。
遙は内心笑いながらも、無表情のまま、冷静な眼を凛に向ける。
「この程度がハードルか? 小さくなったな、おまえ」
「ったく、可愛くねぇな、おまえは」
凛は文句を言った。だが、その表情は楽しげだ。
「だいたい、おまえ、勝ち負けはどうでもいいって言ってなかったか?」
「それはもうやめた」
おまえにオーストラリアで夢を見せられてから。
そう思ったけれども、言ってはやらない。
「まあ、いい」
凛は荷物を床へとおろした。
「これからしばらく世話になる」
日本選手権水泳競技会は東京辰巳国際水泳場で行われる。
凛の実家は東京から遠いから通えないので、東京での宿泊場所が必要となる。
その宿泊場所が、遙が借りているこの部屋である。
ふたりで決めたことだ。
遙は凛にうなずいて見せた。
これから、ふたり暮らしが始まる。
といっても、大会中心の生活になりそうだが。
作品名:For the future ! 作家名:hujio