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For the future !

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二年目八月下旬 時のひとになったらありそうなこと



帰国した翌日から、凛と遙のふたりはマスメディアからの取材や出演依頼を多数受けることになった。
それでようやく、ふたりは自分たちが珍獣扱いされているのではなく、水泳界のイケメンコンビなどと呼ばれてアイドルのような扱いをされているのに気づいた。
単体では、遙がクールビューティースイマーと呼ばれているのに対し、凛は自分の形容詞にエロが付けられていることに少なからずショックを受けた。
そして、今、ふたりはテレビ番組に出演していた。
昼過ぎに生放送されるバラエティ色の強い情報番組である。
ふたりが登場すると、観覧席にいる一般女性たちが歓声をあげた。凛の顔に一瞬驚きが出てしまったほどの甲高い熱狂的な声だった。
それから、ふたりは隣り合って座り、パンパシフィック選手権での映像などで紹介されたり、番組の進行をつとめるアナウンサーやレギュラーの芸能人に質問されたりした。
報道番組のスポーツコーナーに出演したときとは違って、雰囲気が軽い。
女性アナウンサーがにこやかに言う。
「おふたりは同じ小学校を卒業されたということで、今日は、なんと、おふたりの作文が掲載されている卒業アルバムをお借りしてきました!」
その手には、見覚えのある冊子があった。
凛はギクッとした。
高校生だったころに遙の家に泊まったとき、あの卒業アルバムをめぐって遙と争いになったのを思い出した。まず遙が凛から卒業アルバムを取りあげ、そのあと、凛が遙から卒業アルバムを取りあげようとして、争ったのだ。理由は、双方の書いた作文の内容、だ。
アナウンサーの近くにある大きなモニターに卒業アルバムの、まず、遙の作文のページが映された。
遙の作文が読みあげられる。
「水は生きている。ひとたび飛びこめば、たちまちソイツは牙をむき襲いかかってくる」
遙の家に泊まったときに凛は同じようにその作文を読みあげ、そして、爆笑した。
けれども、今は笑う気がまったく起きない。
それどころか背中を冷や汗がダラダラ流れているように感じる。
だって、遙の作文が読みあげられるのなら、次に自分の作文も読みあげられるのだろう。
あの作文が……!
やめてくれと言いたい。
しかし、凛の隣の席で遙はいつもの無表情を崩さずにいる。自分の作文が読みあげられるのを、冷静に聞いている。
遙に負けたくない。その思いで、凛は取り乱しそうになる自分を抑える。
やがて遙の作文を読み終わったアナウンサーは、感想を口にする。
「七瀬選手は昔から独特の感性を持っていたんですね」
レギュラーの芸能人たちは反応に困っているらしく、顔に微妙な笑みを浮かべてコメントはしない。観客席の女性たちも戸惑っている様子だ。
まあ、あの内容だからな、と凛は一瞬思ったが、今はそれどころではないぞ、という心の声がその感想を打ち消した。
危機がすぐそこまで迫ってきているのだ。
「では、次に松岡選手の作文をご紹介します」
やっぱり来た……!
予想はしていた。覚悟はしていた。それでも、実際にこのときが来ると、眼のまえが一瞬真っ暗になったように感じた。
アナウンサーの近くにある大きなモニターに今度は凛の作文のページが映された。
うわあああああ!
凛は胸のうちで叫ぶ。
その一方で、アナウンサーは小学六年生だったころの凛の作文を読み始める。
「マイシャイニング」
くっ、と凛は軽く歯を食いしばる。
「岩鳶小学校、そこは俺のかけがえのない場所。キラキラ光る窓、ヒラヒラと舞う校庭の蝶」
どんどんポエマー色の強くなっていく作文に観覧席からざわめきが起こる。
凛は平静を装おうとするが、顔をあげていられなくなって、うつむく。
「すべてがまぶしく、俺を輝かせるシャイニング!」
アナウンサーは聞き取りやすい大変綺麗な発音で朗々と読み続ける。
そのうまさが、凛にとってはつらい。
「そこで俺は見つけたのさ、もうひとつのシャイニング。いつか一緒に宇宙の果てまで羽ばたくことができたなら」
ついに宇宙まで出てきて壮大な展開になってきた。
だって、それ書いたの小学生のときだぞ!?
凛は頭を抱えて身もだえしたくなる。
そんなとき、ふと、遙がその膝の上に置いた手が凛の眼に入ってきた。遙の握られた手が少し震えている。その顔を見てみると、いつもの無表情。いや、ちょっと強ばっている気がする。どうやら吹き出すのをこらえているようだ。
いいよ、もう、いっそ笑えよ。
そう凛は投げやりな気分になった。
しばらくして、ようやく凛の作文の朗読が終わったあと、スタジオ内の雰囲気は遙の作文が読みあげられたあととは違ったものになっていた。
「いやあ、小学生らしい作文でしたね!」
「微笑ましかったなあ」
「松岡選手って言ったら、男らしくて、すごくカッコいいイメージがあったんですが、イメージがちょっと変わりました。ものすごくピュアというか」
レギュラーの芸能人たちは顔を明るくして次々に感想を言った。
観覧席の雰囲気もいい。ギャップ萌えしているらしい。ただし、凛はそれに気づいていない。
凛の作文を見事に読みあげたアナウンサーは満足げな顔をしている。
「松岡選手」
呼びかけてきた。
「このもうひとつのシャイニングとは、なんのことですか?」
「……仲間のことです」
少し重い声で凛は答えた。
もうひとつのシャイニングとは遙をさしているのだが、遙も仲間であるのには違いないので、仲間とした。
いつか一緒に宇宙の果てまで羽ばたくことができたなら、なんて。
これは遙に対するラブレターのようなものだ。
堂々と卒業アルバムに書いた小学生の自分はすごすぎると凛は思った。
「松岡選手は小学六年生の冬に七瀬選手のいる小学校に転校されたそうですね」
「……はい」
「七瀬選手の泳ぎに惚れ込んで、一緒に泳ぎたくて、そうしたそうですね」
「……はい」
父方の祖母の家に住民票を移して、転校した。
それについて凛はいっさい後悔していないし、そうして良かったと思っている。だが、こうした場で明らかにされると、なんだか恥ずかしい気がした。
だいたい、どうしてこのアナウンサーはそんなことを知っているのだろうか?
その凛の疑問を感じ取ったように、アナウンサーはにっこり笑って言う。
「卒業アルバムと今の情報の提供は、おふたりの同級生で親友の方からでした」
真琴おおおおおおおおお!!!
頭に浮かんだ優しく笑う真琴の姿に向かって、凛は心の中でほえた。
「さて、次に松岡選手の高校生時代の写真をご紹介します」
にこやかにアナウンサーは続ける。
「松岡選手の高校の水泳部の後輩の方から、お借りしました。凛先輩が一番輝いていた瞬間だそうです!」
アナウンサーは見ている者たちの期待をあおるように声を大きくし、その手のひらでモニターをさした。
モニターに高校生の凛の写真が映し出された。
「松岡選手が高校二年生だったときの文化祭の写真です」
「うわー、綺麗!」
レギュラーの芸能人が思わずといった様子で声をあげた。
モニターに映し出されているのは、鮫柄学園水泳部伝統の冥土喫茶での凛の姿だ。
メイドの格好をしている高校二年生の凛だ。あのときのメイドの中では凛が一番人気だった。
凛にとっては黒歴史である。
「似鳥ィィィィィィィ!」
作品名:For the future ! 作家名:hujio