かじみちつめ
IF
医局で未知子は自分が執刀医を務めるちひろの片側生体部分肺移植の手術について説明し、助手二名を募集した。
レシピエントが小さな子供であるのに対し、ドナーは体格の良い成人男性で、さらに心臓肥大の問題もあり、レシピエントの右胸にドナーの右下葉は収まらないかもしれない。
外科医たちはひるんだ。
その一瞬あと。
「しょうがないな」
加地が声を挙げた。
「腹腔鏡の魔術師様が助手やってやる」
しかし。
「あんたはダメ」
未知子はツンとした表情できっぱりと拒否した。
加地は驚く。
「なんでだよ!?」
「あんたにはドナーのグラフト摘出やってもらうから。じゃあ、助手二名、だれかやってくれるひとー」
「大門、私がやる」
海老名が名乗りをあげ、その顔を原に向ける。
「原先生、第二助手よろしく」
「はあ」
原はうなずいた。
加地はハッと我に返る。
「おい、ちょっと待てよ。なんで俺の了承なしに話が進んでるんだよ!?」
「患者が安全に麻酔導入されたのを確認してから、ドナーの手術を開始」
そんな加地を無視して、博美が手術の話を始めた。
未知子は加地先生が助手に名乗りを挙げても、海老名先生が加地先生を第二助手に指名しても、それを断ったんじゃないかなと思います。
最初から加地先生にドナーのグラフト摘出手術をしてもらうつもりだったんじゃないかな。
未知子がちひろちゃんの右肺を全摘してから、加地先生がドナーから摘出したグラフトが届くまで、少し時間があったけど、摘出したグラフトを箱に収めてオペ室Bから廊下を歩いてオペ室Aに運ぶ時間を考えると、未知子がレシピエントの右肺を全摘した時間と、加地先生がドナーからグラフト摘出した時間はほぼ同じだったのではないかと思います。
加地先生が常軌を逸した悪魔の所行と表現した未知子のオペの早さに加地先生はついっていったことになります。
しかも、早いだけじゃダメ。
未知子の早さについていくために、あせって、急いで手術して、なにか失敗してしまったら、絶対にダメ。
自分についてこられる早さがあって、なおかつ、うまく処置できる。そう加地先生のことを、未知子は判断したんだと思います。
未知子は加地先生を信頼している。
そして、それに対して加地先生はちゃんと応えてみせた。
おたがい、それについてはなにも言わず。加地先生は文句言って。照れ隠しみたいに。
オペ室Aとオペ室Bで、別々の部屋で手術して、でも、信頼でつながっている気がして、本当にすごく萌えました。
それに、未知子は助手二名を募集したけど、グラフト摘出手術はあたりまえみたいに加地先生を指名している。
未知子は加地先生に自分の手術に関わらせることを命令してもいいと思ってる。
例の加地先生からペンライト借りたときみたいに。
それって、加地先生への甘えなんじゃないかな、未知子は加地先生には甘えてもいいと思ってるんじゃないかな、と感じて、萌えます。