ひとりのよる。
今日は幽が仕事で帰ってこない。
広い部屋に一人、テレビの音が響く。
現実味のない薄い画面の中は賑やかで。
少しでも気を紛らわせたくてつけたつもりだったのに余計に寂しくなった。
ビールを飲み干しぼーっとテレビを眺める。
化粧品のCM。
幽が映った。
キレイな微笑を浮かべ、画面のこちら側へ手をのばすような感じで。
掴める筈がないのに、手を伸ばしていた。
ほんの数十秒程度の話。
「・・・バカじゃねえの俺。」
昔から待たせたり我慢させたりしてきたのは俺の方。
俺はあいつに困らされたり寂しい思いをさせられたことはなかった。
だから多分俺はあいつに対してわがままになった。
『電話くらいしろ。』
忙しいと分かってるのに携帯を手に取る。
送信ボタンを押す直前に、やっぱりやめた。
途端鳴り響く携帯に思わずびびった。
相手は幽。
1コールで出るのは待ってたみたいで少しアレなので2,3コール鳴らしてから通話ボタンを押す。
「・・・お前超能力者か。」
『え?どういうこと?』
「別に。なんでもねえ。」
『兄貴も話したかった?』
「・・・やっぱりお前、」
『ああ、そういうことなら兄貴に関しては俺超能力者かも。』
俺は思わず笑った。
さっきまでの孤独感は少し、なくなっていた。
END