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夢の中で得たカフェインで目を覚ませるのか

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午前二時三十二分。春。

雨と言うには冷たくて、雪と言うには暖かい。
まあつまり世間で言うところのみぞれに打たれながら顔を上げた。
送っていこうという友人の言葉を丁寧な嘘で断って、ならば傘をという勧めすらもなんだかんだではぐらかして、バカみたいに二時間も歩き続けて国道沿いのコンビニで缶コーヒーを買った。
件の友人の知り合いがたしかCMに出てた、気がする。
あまり興味がないので覚えていない。
プルタブをあけようにも指がかじかんで動かないのでそのまま手ごとポケットに押し込む。
春夏秋冬なんて言ってしまえば簡単なものだけど、温暖化だの異常気象だのという漢字四文字を使えば結局あんまり関係無い、四月頭に降る雪の残骸が頬を伝い落ちた。


あの娘と知り合ったのはもう少し、空気が柔らんだ季節。たしか三年前の五月の半ば。
気まぐれのように届いた拒否権の無い招待状に誘われて参加した奇妙なパーティで会ったのが最初。
もしかしたら以前から知っていたのかもしれない、そう思えるほどあっさりと、僕の思考は生きている人形なんてよく解らない存在を受け入れた。

自分以外に美しいものなんてこの世にないと信じていた僕の価値観を、彼女はたやすく作り変えた。
ちっぽけなフランス人形。
歌って、踊って、時折笑うだけの存在。
それでも、彼女は『僕の世界で二番目に美しいもの』になるには充分すぎるほど、愛らしかった。

雪のような白さと、儚さと、その冷たい白磁の肌。
今頬を伝うものと同じ熱のその体が、どうして僕の手の中で溶けて消えてしまわないのか不思議で仕方なかった。
尋ねると彼女は笑って答えた。

「それはね、あなたがとけないでっておもったからよ」

馬鹿らしい子供騙しみたいなその答えを、その時はどうしてか成程と納得して頷いた。

今、雪が頬を伝う。
彼女と同じ白さ、同じ熱のそれに、溶けないでくれと呟いた。
呟いた。
お構いなしに、崩れて消えて、コートの襟をぬらす。

ああ、嘘じゃないか。
願ったって何一つ叶いやしない。
知ってたはずだ。彼女に出会うまでは、解ってたのに。
あのパーティ以来、僕は夢から抜け出せなくなった。

缶コーヒーを開ける。
元々あまり飲まないし、彼女がきてからは買い置きすらしなくなった。
この匂いを彼女が好まないというのもあるけれど、それ以上に、目覚めたくないという僕のワガママの方が大きかった気がする。

さて、ここからだと多分、徒歩一時間か。
それともタクシーでも拾って帰るか。
頬を伝う彼女の小さな手みたいな雪を……あれいつの間にみぞれが雪に変わったのか。これだから異常気象ってやつは……ぼんやりと感じつつ、苦いだけの水を飲み下した。