花鳥風月 ―雨―
浮竹は慌てて身を起こすと、雪見障子を開けた。ちょうど彼が立ち去ろうとするところだった。勢いよく上げられた障子に、一歩踏み出した足は止まる。いつもなら見ることのない京楽の半身。それでも目深に被られた菅笠から見えるのは、口元だけだ。彼からも浮竹の姿が見えるのだろう。その口元の両端が、結んだままに上がった。そして会釈のように菅笠を軽く抑えると、京楽は遠ざかって行った。
それだけだ。言葉もなく、視線も交わさず、互いの存在を感じ合うだけ。逢瀬と呼ぶには色気がない。
ただ、あの雨の夜に断ち切ったものが心に満ちてくることを、浮竹は感じずにはいられなかった。