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敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

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おれの兄貴を死なせておいて――そう思わずにいられなかった。そのときに兄を連れて帰ったのならまだ話はわかるだろうが、自分だけ逃げた男が何を言うんだ。そんな男がなぜ責任を取らぬままあんなてっぺんの部屋にいて、いい気なことを言ってるんだ。

そう思わずにいられなかった。沖田艦長。あれは、ほんとに、一体どういうつもりでいるんだ。おれの兄貴を死なせた場所に、今度はおれに行けと言う――おれの一家一族になんか恨みでもあるわけか?

そうだ。やっぱり、そのときも、兄さんだけを無理に進ませたんじゃないのか。自分は逃げるがお前は行けと――今度はおれに、敵の基地を潰さぬ限り船に戻るのは許さぬと言って、しかし見捨てて行く気じゃないのか。

この作戦がダメならば〈ヤマト〉は一度地球に戻り、エリートが逃げる船としてマゼランと逆の方向に行くらしい。実はほんとは最初からそのつもりでいるんじゃないのか。

そう思わずにいられなかった。だが今、船はいたるところ、沖田の言葉に沸いてるらしい。奮い立つ雄叫び声がワンワンと壁を響かせて聞こえてくる。

いま近くにいる者達も、みな戦いに臨む思いを新たにしているようだった。当然だ。この〈ヤマト〉の乗組員、全員がパトリオットに違いなかった。地球を救うためならば、オレの命など惜しくはない――赤青緑にカーキやグレーの別もなく、そう本気で考えているに違いないのだ。〈スタンレー〉で戦って死んだとしても望むところ――これまで迂回を唱えてきた者達でさえそうであり、船を護るためならば平気で盾になれるのだ。

沖田のために命を捨ててしまえるのだ。そんな、と思った。冗談じゃない。おれはとてもそんなふうには――。

考えられない。そう思った。沖田艦長、おれにはとても、あんたならば地球を救ってくれると信じてこの身を敵に突っ込ませるなんてことはできない。そもそもあんたを信じる気がまったくしない。

兄さん、と思う。けれど兄さんはそうしたのか? あの白ヒゲを信じたのか? あなたのためにむしろすすんで盾になりますなどと笑って狂った命令に従ったのか? そうして兄さんの下にいた〈ゆきかぜ〉乗組員達もみな無駄死にさせられた?

変だと思わなかったのか、兄さん――古代は思った。気づくと自分のまわりだけ、〈ヤマト〉のクルーがみな黙ってしまっていた。妙な顔して黒スーツの自分を見ている。

死神でも見るような眼――不意に気づいた。全員が、兄貴のことを知っている。いや、今まで知らずにいたのはおれだけなのだ。

タイタンでの戦いの後、おれが〈ゆきかぜ〉艦長の弟なのだということは、クルーの間にたちまち噂が広まったに違いない。いつか、第一艦橋で言われた言葉を思い出した。君の兄のことはワタシからも悔やみを言わせてもらう――あのとき、真田という男は、おれに向かってそう言った。おれは『最後の二隻』の話にあまり関心がなかったから、ただの儀礼とばかり思っていたけれど。

だが、違うのだ。今、誰もがその件で悔やみごとでも言いたそうにおれを見ていやがるのだ。おれでなく、おれの後ろにおれの兄貴が立っていないかと窺うような眼でもって。

みな沖田がおれの兄貴を死なせたことを知っている。そこに不審を抱いてもいるが、だがそれなりのわけがあったのだろうとも考えているに違いない。誰もがそういう顔をしているように見えた。

なんと言っても、今の沖田は〈スタンレー〉の敵を追い払った男だ。だからこれからそこでの戦いに臨めるのだ。今の訓示は素晴らしかったとたぶん誰もが思っている。あの艦長なら信じられる。皆がそう考えている。沖田なら必ず奇跡を起こすはずと――。

そしておれは、沖田が選んだ男なのだ。そして〈ゆきかぜ〉艦長の弟だと言うではないか。だからきっと、敵地ではその英霊の魂がこいつの体に乗り移り、勝利を掴み取ってくれるのではないか、とか――。

まさか、とは思いつつ、そんなことを期待し始めたような顔。未だにおれを指揮官としてどうなのかと疑う思いも半々の視線が刺さるように感じる。

足が震える。古代は身から血が引いて、どこかに消えてなくなってしまったような感覚を覚えた。これがこの〈ヤマト〉という綱渡り船で、航空隊長の責を持つ者が立たされるロープなのだと今更のように気づかされた。そんな、と思う。やめてくれ。みんなおれを見ないでくれ。おれは兄貴と違うのだから。あの艦長を信じてなどいないのだから。

無理だ。おれには無理なんだ。おれは鬼神なんかじゃない。隊を率いて敵と闘うなんてことができるような人間じゃない。そんなの見てわかるだろう――そう思った。だがそんな言葉を口から声にして出せるようなはずもない。古代は皆を見返してその場に立ち尽くすだけだった。