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敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

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見ると、太田はタコの形に茹でられたソーセージを楊枝(ようじ)に刺して持っていた。新見が見てククッと笑う。手を伸ばして彼女もソーセージを取った。

カニの形にされたやつだ。楊枝に刺したそれを歩いて見せるかのように目の前で振り動かす。

「ええと」と南部は言った。「冥王星にそんなのがいるって?」

「『いたらいいな』って話ですよお」

「バカらしい」

南部はタコ型ソーセージを取り上げて、見もしないで口に入れた。新見が、「あーもったいない、せっかく……」と言う。南部は「はん」と言って返してやった。

新見や太田の気持ちはわからなくもない。今日のこの日に、ソーセージがタコカニにされおにぎりと一緒に配られているのは、決してお遊びではないのだ。米のおにぎりに『地球の緑を芽吹かせる種を体に取り込め』と言う意味があるのと同じように、タコとカニには『母なる海を取り戻してそこに命を還さねば』との決意が込められている。だからわざわざ人を募ってソーセージに刻み目入れて茹でているのだ。

今の〈ヤマト〉で食肉と言えばこの合成ソーセージ。普段はこれを切ってカレーの具にでもするか、やはり合成のパンに挟んでサンドイッチにするなどしかない。戦いに臨む今だからこそ、味気ないこの食事をなんとかしたい。だが食材がないなら、せめて――。

そんな生活要員の想いが、ソーセージ一個一個に込められている。それを理解するからこそ、太田も新見も冥王星にタコやカニに似たものがもしやいないだろうかとつい考えてしまうのだろう。氷の下に海があり、熱があると言うのなら、生命が存在するかもしれない。いてもミジンコじゃつまらないが、こんなタコカニ、もしくは地球の流氷の下のクリオネのような。

できるものなら波動砲で冥王星をまるごと吹き飛ばすのがいちばんいい――そう口にするたびに、『もしクリオネがいたらどうする』と南部は聞かれた。冥王星にクリオネがいても君は撃つのかと。そのたびに、バカらしい、そんな議論をする気はないねと南部は応えてきた。そんな話はタラレバとタラレバの言い合いにしかならないじゃないか。今のままでは地球の生物全部が滅び去るんだぞ。地球の自然を戻すなら、まず遊星を止めることだ。それで雑草程度のものはまた生えてくるんだから、それ以外のことを考えるべきじゃない。

南部はそう言い続けてきた。遊星投擲が止められたら、極の氷を解かして海を元に戻せる。地球の地面を少し掘れば、まだダンゴ虫程度のものは生きてることが確認されてる。それに、ある種の雑草の根も……海さえ戻せば、塩害や放射能にも耐えるそれらの生物がまた地上に出てくるだろう。人が何もしなくても、地は緑に覆われはする。

十億年後にまた大きな生物が大地を闊歩するかもしれない。たとえ今の生物と似ても似つかぬものになっても……だが、元々そういうものだ。人の手だけですべてを元に戻すなどどうせ無理なことなのだから、まずは海――この考えが、『子を億の単位で救い、地面の塩を取り除いて〈ノアの方舟〉の動物達を地上へ』と言う島と対立することになった。無論、島の考えが間違ってると言うつもりなどないわけで、要は何を第一とするかだ。地球の海を戻すためなら冥王星は消し飛ばす。クリオネがいるかどうかなんて話に聞く耳持たぬと言うのが己の考えであり、南部はそれを変える気はなかった。波動砲が使えないなら、どうせしようのないことだが。

波動砲は使えない。しかしなるほど、新見と太田。言うことにも一理あるなと南部は思った。生物うんぬんの話ではなく、波動砲が50パーセントの充填でもし撃つことができればの話だ。ピンポイントで地下深くまで突き刺せるなら、遊星の投擲装置がどんな深部にあったとしても潰せるだろう。航空隊の核攻撃でも壊滅にさえ至らぬとしたら、何か殲滅する手段は……。

今度はカニ型ソーセージをつまみながら考える。と、そのとき太田が言った。

「もしも基地が氷の下の海底にあったら、大抵の攻撃は水に吸収されちゃうでしょうね。そのときはどうします?」

「やめろ」と言った。「太田。どうしてそんな話をこんなときに蒸し返すんだ」

「え、いえその……」

新見も言う。「そんな意見は前からありましたけど、『可能性は低い』として退けられていましたよね」

「いや、まあ、地理を調べてて、ふと思い出したものだから……」

「だから言ってるだろう、ふたりとも」南部は言った。「こんなときに机に齧り付いてキリのないことやってるから、要らないことまで気にするんだ。そんなんであした体がもつと思うか。トットとやめて睡眠を取れ」