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敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

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「ワープに波動砲、イスカンダルにコスモクリーナー……雲を掴むような話と思うよ。こうして乗っていたってそうなんだからな。〈ヤマト〉をほんとに見たこともない地球の人に『信じて待て』と言うのが無理さ」

「ええ」と藪は頷いてから、「人は『〈ヤマト〉は帰る』と言うより、『〈ヤマト〉なんていない』と言うのを信じる……でも、それで大丈夫なの? そんなのでこの船が戻るまで地球はもつのかな」

「それなんだよな」

とひとりが、牌を手にして見ながら言った。

「『滅亡まで一年』という期限はあくまで、水の汚染の進行を元にした推算だ。カルトのテロがそれを縮めるおそれは計算に入れてない」

「それじゃあ……」

「ああ。はっきり言って、一年ではたぶん間に合わない。それどころか、日程通り九ヶ月で戻ったとしても手遅れになっているかもしれない」

とまたひとりが言って、またまた別の者が、

「だからとにかく、『一日でも早く帰ろうと努めなければ』と、航海組のクルーは言っているわけさ」

薮は言った。「あの島っていう……」

「そう、あれだ。まったくあの操舵長が言ってる通りなんだけどね」

手元の牌の並びを見たが、麻雀にまるで集中できなかった。藪は思い巡らしてみた。『滅亡まであと一年』。この〈ヤマト〉は、そう告げられて宇宙に出た。けれどもその数字はひとつの目安に過ぎない。十三ヶ月で戻ったとしても、人の多くはまだ生きている。ただ、生きている子供達に、余命宣告せねばならないというだけだ。君達は誰ひとりとして、大人になることはできない。あと数年で癌に体を食われて死ぬと、言わねばならないというだけだ。だから十三ヶ月ではいけない。一年以内に戻らねばならない。

いや、もっと早くにだ。日程通りに九ヶ月で戻るならば、いま生きている子供達の多くは成長できるという。十ヶ月ではしかしその半分に下がる。十一ヶ月でさらにその半分に落ちる。〈ヤマト〉が一日遅れるごとに、一万十万二十万、最後には日に百万人の子が病(やまい)に侵されていくのだ。

しかしそれも目安に過ぎない。地下都市の水の放射能は、日々濃度を増している。それは飲み水ばかりではない。農業用水。畜産用水。いや、もはや地球では、草を育てて家畜に食わせ肉やタマゴを取るなんてことはもうできないという。それをやったら人の絶滅を早めるのだ。

地球に残る人々の身に、放射能が日々蓄積されつつある。特に、何よりも子供達だ。〈ヤマト〉がたとえ九ヶ月で地球に戻り、彼らをみな救けたとしても、それは命だけのことだ。誰もが障害を抱えながら生きることになるだろう。おそらくせいぜい四十か、五十歳の命だろう。

ではどうする。急ぐしかない。急げ。急げ。一日でも、一分一秒でも早くだ。コスモクリーナーを持って戻る。〈ヤマト〉にできるのはそれだけだ。だから急がねばならない。滅亡まであと一年。ならそれまでに戻ればいい――決してそんな話ではない。日程では九ヶ月。ならばそれを守ればいい――そんな話ですらない。

そんな数字は目安なのだ。水の汚染と子の命。ただそれだけを基準とし、それ以外の不確定要素はまったく考慮に入れていない。それ以上に伸びることは有り得ぬが、縮む方にはいくらでも縮まる。極端な話、ガミラスが明日、波動砲と同じものを造り出し、それで地球を撃つことだってないと言い切ることはできない。

〈ヤマト〉の旅がたとえ成功したとしても、手遅れである場合も有り得る。だから航海組のクルーは先を急がなければと言う。どんなに早く帰ろうと早過ぎるということはない。

確かに言う通りなのだ、あの島とかいう男の……機関室にもたびたび現れ、徳川のおやじさんとやいのやいのと言い合ってるが。

急げ。地球は〈ヤマト〉の帰りを待っている。しかし果たしてどうなのだろう。本当に人は〈ヤマト〉を待っているのか。

テレビを見れば、ときにどこかの学校が画面に映ることがある。子供達がカメラに向かい、せーので声を揃えて言う。『〈ヤマト〉の皆さん、ボク達は、皆さんの帰りを待っています。コスモクリーナーを持って必ず地球に戻ってきてください』。しかしこいつは、大人が言わせているだけだ。本当は誰に向かって言わせているかまったく知れたものじゃない。

〈ヤマト〉を待てと政府は言う。しかし信じられるだろうか。誰がアテにするだろう。待つも待たぬも、〈ヤマト〉など、そもそも本当にいるのかどうか。

まずそこから疑わしい、ということになると、どう応えればいいと言うのか。しかし実在を疑う声は大きくなっていくだろう。〈ヤマト〉なんかいないんだろ。そうなんだろ。いいかげんに本当のことを言えと市民は言い出すだろう。

それが人間というものなのだ。人は人を信じない。神を騙(かた)る者を信じる。そして今やガミラスが神だ。

神は人を滅ぼすものだ。滅ぼしてから救うものだ。だから神はガミラスと信じる者は救われる。その教えを広めよう。邪魔するものは打ち倒そう。

これは聖なる戦いだ。我らの神だけ救いの神だ。他のいわゆる〈ガミラス教〉と呼ばれるカルトの者らは殺せ。『〈ヤマト〉は帰る』などと言う政府を信じるやつらも殺せ。隣りの家に火をつけろ。その隣りにも火をつけろ。

地下都市では雨は降らない。強い風が吹くこともない。だから市民住宅は紙のパネルで出来ている。あくまで仮りの住まいのはずのものなのだ。火をつければあっという間に燃えてしまう。

地球ではカルトの火が燃えている。〈ヤマト〉がワープし波動砲を撃つことが、その炎に油を注ぐ結果を生んだ。カルトを信じる者らにとって、〈ヤマト〉は決して帰ってきてはならない船だ。その〈ヤマト〉が太陽系を出たときに、地下の人々はどうなるだろう。

子供達は? 〈ヤマト〉は子供を救う船だ。だからそのために宇宙にいるのに、日程からすでに大きく遅れている。

滅亡まであと一年。そんなものは目安という。日程では九ヶ月。それすらアテにならないという。〈ヤマト〉が戻ってきたときに、地球の子供が生きる望みが残されている保証などは何もない。

それでいいのか? 何か手を打つべきじゃないのか? とにかく急げ。ただ遅れを取り戻せ。航海部員はそれだけ言う。他にできることはないと。

そうなのだろうかと藪は思った。この計画そのものに無理があるのではないか。コスモクリーナーで放射能除去。なるほどそれができると言うなら確かに結構なことではあるが、まずは子供を救えと言うなら何か他に現実的なプランが考えられないのか。

たとえば――。