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敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

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数日前なら決してあんな顔はしなかったことだろう。〈生活班〉では誰もが古代を苦々しい眼で見ていたのだ。主計科では古代が食事に来るたびに食堂がシンと静まると訴えて、なんであいつにメシを食わせなきゃいかんのだと言っていた。一体全体、ありゃなんだ。藤堂長官の隠し子かなんかで、〈ヤマト〉が帰って地球が救われた暁には、全部が全部あの古代進君のおかげですと言うことになるよう手はずが整えられていたりするのか。艦長は上からそう言い含められていて、だからあいつを形だけの〈戦闘班長〉なんかにしたんじゃねえだろうな、などと言う者までいたりした。どうせ本部の偉いさんは船の戦闘要員だけが兵隊で、メシ炊き係や作業員は奴隷としか見てねえんだろ。古代が乗れば〈ゼロ〉がビビューンと通常の三倍くらいの速度で飛んでガミラス戦艦五隻くらいズガガガガーンとやっつけましたなんて話が今頃デッチ上げられてんじゃねえのかよ、などと。

この〈ヤマト〉で最も働かされるのは黄色コードであるだけに、森の部下の古代に対する不平の声は高かった。この航海を成功させ、一日も早く地球に戻ろうと努めているのは他の誰より船務科員だ。もしも古代が何も仕事はしてないくせにまるでゲームの主人公のように何もかも自分に決める権利があるという顔をして艦内を歩いていたならば、きっと今頃、食事にボツリヌス菌でも混ぜられるか、個室の空気を抜かれて『アラアラ大変だ、日の丸の旗で包んで宇宙に流してあげなくっちゃね』なんてなことになっているに違いない。

船務科員が何人かツルめば事は簡単な話だ。この〈ヤマト〉は間違いなくそういう船なのであり、沖田艦長にだってどうにもできるわけがない。もしもどこかで古代ひとりを英雄に仕立てようとする陰謀なんかがあったとしても――わたし自身がかつてそんなことを疑って、島に『バカな』と言われたが――決してうまくいくわけがないのだ。

そして、古代は、よく見てみれば確かに違った。タイタンで本当に船を救われてしまっては、主計科員ももうあいつを無駄飯喰らいと呼ばなくなった。今やみんなが思い出してる。古代が〈エルモ〉であってほしいと――この船にやって来たのはただの偶然なんかじゃなく、運命が招き寄せたものであってほしいと。まだ人を見捨てていない〈神〉と呼ぶべきものがいて、遣わしてくれた守護聖人であってほしい。〈ヤマト〉には〈セントエルモ〉が必要だ。古代がそうであるのなら、この旅も必ず成し遂げられるはずなのだから。地下で待つ家族を救えるはずなのだから……。

神か、と思う。くだらない。わたしだけはそんなものにすがるものか。親のようになってたまるか。ましてや古代みたいなのが、神の遣いだなどと信じてたまるものか。

信じて頼れる者と言えば……考えたとき、ゴンドラが背後で唸る音がした。

沖田艦長が上から降りてくる。席に着いて艦橋の中を見渡した。

「諸君、準備は整ったようだな」

「はい」と真田が応えて言った。「すべてオーケーです。いつでも〈スタンレー〉に行けます」

「よかろう。全艦に発令しろ。只今より〈ジャヤ作戦〉を開始する」

「はい!」

森はマイクを手に取った。呼吸を整えてから、ふと、《OK》の印が並ぶチェック項目の中にある航空隊の格納庫の部分に眼をやった。

古代。ほんとに、あいつオーケーなんでしょうね……。