敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目
皆、表情をハッとさせた。そうだ、という顔になる。
そうだろう。当然だった。これも、やはり本当は、誰もが知っていたはずなのだから――だが課せられた使命の重さが、疫病神探しをさせた。戦いに敗け、人が滅んでしまったときに、オレのせいになるのはイヤだ。せめて他の誰かのせいであってほしいという思いが、いもしない疫病神の幻をクルー達に見せていたのだ。
しかし今この瞬間に、ついにそれは消え去った。ワープまで40秒。古代は言った。
「生きて帰れと言うことはできん。だが、それでも生きて帰れ。死ぬのは許さん。断じてだ。〈アルファー・ワン〉になれないが、それでもおれが〈アルファー・ワン〉だ。自分が死んでも他の誰かが地球に帰ればいいと全員が考えていたら全員が死ぬぞ。おれ達はただのひとりとして死ぬことは許されん。だから言え! おれの後に続いて言え! 『おれは生きて帰る』と! おれは、生きて、帰る!」
叫んだ。声が、格納庫に反響した。ワープまであと35秒。波動エンジンの唸りは轟音と化している。
「おれは、生きて、帰る!」
また言った。吠え声を腹の底から絞り出し、力の限り古代は叫んだ。エンジンの音より高く古代は叫んだ。
「おれは、生きて、帰る!」
「おおうっ!」と加藤が叫びで応え、声を上げた。「おれは、生きて、帰る!」
続いて、他の者達もコールに加わる。ワープまであと30秒。轟くような叫びが船を震わせ始めた。
作品名:敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目 作家名:島田信之