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敵中横断二九六千光年2 ゴルディオンの結び目

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それが〈エルモ〉だ。古代こそ、皆が求めた発光する放電だった。技術科のラボでは斎藤が荒くれ科学者どもと共に叫んでいた。機関室では藪が銀色の消防服に身を包み、このときばかりは不安を忘れて叫んでいた。おれは、生きて、帰る! おれは、生きて、帰る! 〈ヤマト〉の波動エンジンは船の前に超空間を作るべくいま唸りを強めている。つんざくような轟音にも男達の声は負けていなかった。女達の声も負けていなかった。おれは生きて帰ると叫ぶ乗組員達の声は〈ヤマト〉艦内を震わせて、分厚い装甲板までも共鳴させているようだった。男も女も『俺は』と叫ぶ中にあって、医務室で佐渡先生ひとりだけ、壁に貼られた猫の写真に一升瓶を振りかざし、

「わしゃあ、生きて、帰る!」ワシャーと叫んでいた。「ミー君! わしゃあ、絶対に生きて帰るぞおっ!」

「ワープまで10秒!」

艦橋で森が言った。ワープ作業要員は、さすがにコールを続けるわけにはいかなかった。南部や新見といった者らも邪魔をするわけにはいかず、黙って己のコンソールに向かう。

〈タイガー〉の格納庫では古代らが壁際に走り、予備のシートに体をくくりつけていた。しかし、すでに席に着きベルトを締めている者は、まだコールを続けていた。

「おれは、生きて、帰る! おれは、生きて、帰る!」

「おれは、生きて、帰る! おれは、生きて、帰る!」

ワープまであと5秒。〈ヤマト〉の前の空間が歪み、そして〈穴〉が開かれた。まるで皆既日蝕を撮った映像のようだった。輝くコロナとプロミネンス。オーロラにも似た光が〈ヤマト〉を包み込む。必生還を叫ぶ者らを乗せた船が、今その中に突っ込んでいく。

この〈門〉を抜けたとき、侵略者から太陽系を取り戻し希望を繋ぐ子供を救い、青い海と緑の自然を蘇らせる戦いの幕が開くのだ。この〈長い一日〉を、七年間の〈夜〉を終わらせ、地球の生物がまた太陽の光を浴びられるのか――それはただ、〈日出ずる国〉の名が付けられた一隻の宇宙戦艦と、かつて同じ名、同じ形の船に乗り込んだ者達と同じ心を持つ者どもにかかっている。宇宙戦艦〈ヤマト〉。そうだ。この船は、この名前とこの形でなければならなかったのだ。かつての帝国戦艦〈大和〉は愚かな者達によって造られ、愚かな戦争によって沈んだ。それは愚かな理由によって沈められねばならず、未来あるはずの若者達が決して生還の許されぬ旅に出なければならなかった。

しかし、この〈ヤマト〉は違う。必ず生きて帰らねばならない。今〈キリキアの罠〉を抜け、遥かなる星の海への旅に出なければならないのだ。

ワープまであと3秒。古代はベルトの金具を留めた。横に山本がいて、32人のタイガー乗りが並んでいる。そして、その他の者達も。

全員が隣りの者と手を繋ぎ合った。艦内に轟くコールの声が格納庫にも届いていた。それに合わせて、全員が最後の声を張り上げた。

「おれは――」

ワープまであと2秒。古代の横で山本も、声を限りに叫んでいた。地球に生きて帰る気などまるでなさそうなこの女も、このときだけは『俺は』と声を上げていた。格納庫の向こう側で、大山田や結城もまた整備員や船務科の仲間と共に叫んでいた。

「生きて――」

ワープまであと1秒。古代はあの日、三浦の海を眺めながら兄が言った言葉を思い出していた。昔、戦闘機があった、強い戦闘機があったと言った言葉を思い出していた。兄さん、おれは戦うよ。あのとき兄さんが呼んだのと同じ名前の戦闘機で戦うよ。その名は、コスモ――。

「ゼロ!」

艦橋で森が言う。同時に島が「ワープ」と唱えてレバーを倒す。その同じ瞬間に、艦内で全クルーが声をひとつにして「帰る!」と叫んだ。

〈ヤマト〉は超空間に消えた。

時に、西暦2199年10月16日。

〈人類滅亡の日〉と呼ばれる日まで暫定あとマイナス一日。

〈その日〉は、すでに過ぎ去っている。

(第二部 完)